2024年7月11日、顧客との継続的なつながりを促進するDX推進の支援事例を紹介するウェビナーを実施しました。実際に支援した博報堂のB2B専門チームの担当者が登壇するということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
ウェビナーでは、リスクコンサルティング事業を営むMS&ADインターリスク総研の海司氏と山田氏が登壇。
リスク対策の会員プラットフォーム「RM NAVI」の開発事例をもとに、開発背景や、現場に立ちはだかる壁、その壁をどのように乗り越えたのかを、博報堂の支援チームメンバーと共に語っていただきました。
後編の本記事では、「社内組織横断」「システム実装」の障壁をどのように乗り越えたか、また、プラットフォームを起点としたB2Bマーケティングの可能性について紹介します。
前編はこちら⇒【BtoB事業のDX推進成功事例】顧客とつながり続けるビジネスモデルの作り方|ウェビナーレポート (前編)
目次
「RM NAVI」プロジェクトを進めていく中で直面した4つの壁
池田 次に、顧客の成功、つまりプラットフォームのベネフィットを集約していきました。
たとえば、リスク管理体制構築に関しては「リソース不足を解消できる」というベネフィット。情報収集・リスク評価・対策実施等に関しては「客観的評価を通じ、最適な目標と対策を立てられる」というベネフィット。コミュニケーション・研修に関しては「役職者全員がスキルを効率的に身に付けられる」というベネフィット。このようにそれぞれ落とし込み、その提供価値を一言で伝わる言葉を探っていきました。
その結果、導き出されたのが「リスク対策がわかる。組織がかわる。」というタグラインです。
提供することの強みを考えるのではなく、この「RM NAVI」というプラットフォームを導入したお客様が、どのような状態になったら成功したと言っていただけるのか、という視点で議論し言語化したことが、壁を乗り越えられた成功要因だったと思います。
海司 このキーワードに着地するまで、ロゴマークも含めて、数多くのご提案をいただき議論しました。顧客企業の皆さんがリスク対策を進めていく中で、私たちのプラットフォームがその一助になれば良いという思いを込めた言葉です。
池田 今までは、専門性が高い大企業の方々に対してお届けしていたものを、もっと幅広く届けていきたいという思いがあり、誰にでもシンプルに腹落ちする言葉にするという狙いが明確だったので、チームとしてもブレずに取り組むことができました。
こうして提供価値をぎゅっと絞り込んだわけですが、実際、ユーザーエンゲージメントを高めるために、どんな工夫をしたのでしょう?
山田 今回の「RM NAVI」は、「リスク対策がわかり、組織がかわる。」ということをコンセプトに設計していきましたが、ユーザーとつながり続ける体験のサイクルを提供することに注力しました。
具体的には、「学べる」「実践できる」「共有できる」という3つの価値を大きな軸として構想を進めました。
「学べる」ということに関しては、欲しい情報にたどり着きやすいように、顧客目線でサービスラインナップを整備し、検索性・発見性を向上させています。
また会員登録することでリスクマネジメントがさらに加速するように、情報誌の入手も無料にしています。
「実践できる」は、旧来のコンサルティングサービスや、今後リリースしていく予定のデジタルソリューションを提供します。
「共有できる」に関しては、マイページの管理機能を充実させると同時に、今後会員企業の皆さんが、横でつながることができるコミュニティづくりを目指しています。
池田 プラットフォームを作るときに、お客様が欲しい情報をすぐ見つけられるように、自分たちの商品(コンテンツ)を細かく再整理することは、重要なポイントになりますよね。
レポートの無料提供ということに関しても、御社の専門性や信頼性を感じてもらう上でエンゲージメントのコアになると思いますし、さらに、お客様のベネフィットや利益につながっていく優れた仕組みだと思います。
あとB2B事業サービスは、導入するのは企業という組織ですが、実際に情報収集するのは個人です。
そうしたキーマンの皆さんにとって使い勝手が良いように、検索性を高めることやリスクマネジメントの知見を高められるように設計していくことは、重要な視点だと思います。
「社内組織横断の壁」をどう攻略したのか
鳥居 社内組織横断の壁について、組織設計やプロジェクト運営に関しては、どんな苦労があったのでしょうか?
海司 この開発プロジェクト自体にも複数の部門、多くのメンバーが携わっていますが、会社としての投資の規模もあり、プロジェクトメンバー以外で意思決定や合意形成に関わるメンバーも多かったので、彼らへの報告や情報共有は重要になってきます。
そうした課題に応えるために今回は、RM NAVI専用のステアリングコミッティという意思決定機関を立ち上げ、合意形成をはかっていきました。
鳥居 私たち博報堂チームも、それぞれのコミュニケーションラインが活発化するように、システムであったりマーケティングの戦略であったり、適材適所にはまるような形でスタッフをアサインさせていただいて、プロジェクトを活性化させ、事業を成功させることに貢献できたのではないかと思います。
山田 鳥居さんにも、実際に弊社のオフィスに常駐していただき、何か困ったときにすぐに声をかけられたり打ち合わせができたりしたのは、非常にありがたかったと思っています。
鳥居 ありがとうございます。私も貴重な経験をさせていただきましたが、構想を進める中では、どのような苦労がありましたか?
海司 プロジェクト自体、未経験という人間が多かったということもあり、目指すべきゴールの整合性を図りながら、目線を合わせていくことには結構苦労しましたね。
山田 システム化するということで、決め事をどんどん進めていかないといけないということがなかなか大変でした。やはり、我々が社内のプロダクトマネージャーのような意識で、システム以外の部分も含めて強い想いをもって進めていくことが重要だと実感しました。そうした苦労が多かった分、リリースを無事迎えられたときの達成感は格別でしたね。
鳥居 私自身も、その瞬間に立ち会うことができて、本当に良かったと感じています。
「システム実装に向けての壁」をどう攻略したのか
鳥居 では、システム実装に向けての壁に移りたいと思いますが、そもそもシステム開発経験がない状況で、どのように品質を担保したのでしょうか?
また、DXに関しては内製化する企業が多い中で、御社は外部リソースを使ってプロジェクトを推進するという選択をしたわけですが、具体的にどんな工夫をされたのでしょうか?
山田 品質をどう担保したのかという点に関してですが、 まず一つは、モックアップを作って関係者でレビューをしました。開発が進む中では、いわゆるプロトタイピングという手法を取り込んで、関係者が実際にビジュアルを見ながら進めていくことで、整合性を図っていきました。
もう一つは、外部公開するにあたってはセキュリティの問題が非常に重要になってくるので、第三者のセキュリティベンダーに脆弱性の診断をしてもらい、UIのチェックサービスも活用してプロジェクトを進めていきました。もちろん、博報堂チームの皆さんの第三者目線もたいへん有効だったと思います。
鳥居 なるほど。外部リソースを効果的な場面で適宜活用することでスピード感をもって推進することができ、品質の担保を図っていったわけですね。
プラットフォーム起点のマーケティング 未来と可能性
最後の質問になりますが、今後良いサービスを提供するためにプラットフォーム起点にどんな取り組みができるのか、簡単にお聞かせいただければと思います。
山田 今回、プラットフォームということでリリースをしましたが、デジタルソリューションなど新しいサービスをシームレスに提供できる設計になっているので、実際にご契約いただいたサービスをマイページから、いわゆるシングルサインオンという形でシームレスにアクセスできるようになっています。
このプラットフォームを社内の関係者にも見てもらっていますが、こんなアイデアはどうかとか、こういった連携をしたいとか、様々な意見が日々舞い込んでくるような状況で、非常にありがたいと思っています。
そういった社内の関係者の皆さんの思いをいただきながら、今後もサービスを拡充していきたいですね。本当に、プラットフォームを起点に色々な広がりができる状況になってきたと思います。
鳥居 プラットフォームを起点に広げていくという考え方は、私たちがずっと取り組んでいる「エンタープライズアーキテクチャ設計」にも通ずるところです。
システムだけではなくて、マーケティングや事業全体の戦略や施策を支えるとともに、業務の効率化や、周りを巻き込んでいくことにも繋がっていくと考えています。
海司 最後になりますが、「RM NAVI」の今後の展望について少しお話させてください。
今後の展開として更なる発展系を目指していますが、今後はグループ各社の商材も載せていきたいと考えています。また、その他の企業とのアライアンスやマッチングも、一つのビジネスの商材としていきたいと思います。
やはり多くのお客様から、他の企業がどんなリスク対策をしているのか、どういう組織体制をとっているのかということを紹介してほしいと言われることが多く、そういった数多くのお客様がお客様同士でコミュニティを作って情報交換をしていただける、そんな広場になることも将来的には考えていきたいと思います。
さらに、サービスの松竹梅をつけながら、それをサブスクモデルという形で提供して、プラットフォーム事業を発展させていきたいと考えています。
池田 ありがとうございます。本日は、「B2B事業のDX推進に立ちはだかる壁の攻略法」ということで、私たち博報堂チームが支援させていただいた、MS&ADインターリスク総研のプラットフォーム開発の事例に関してご紹介しました。
海司さん、山田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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プロフィール
鳥居 宏行
株式会社博報堂
CRM&システムコンサルティング局 システム推進グループ
マーシス・エンタープライズアーキテクト
大手SIerでPM経験を経て、2022年入社。大規模のウォーターフォール開発から、短期のアジャイル開発まで幅広くプロジェクトをマネジメント。 エンドユーザ向けのECサイト、ポイントシステム、スマホアプリなどの要件定義から構築、運用までの実務も多く経験。特にマルチベンダー体制でのプロジェクト管理を得意。 近年は、クライアント側の立場でのシステム企画、開発の推進を実施するとともに、社内でのPM研修講師も実施。
池田 善行
株式会社博報堂
エクスペリエンスクリエイティブ局
エクスペリエンスデザイナー
博報堂にてエクスペリエンスデザインの領域を専門として多様なプロジェクトを推進。 現在は、B2BのDX推進、セールスマーケティングを支援するGRIP & GROWTHを立ち上げ、クライアントの支援を行なっている。 事業構想から、エクスペリエンスまで一貫してプランニングし顧客体験に落とし込む。また、OMO領域の経験も豊富で、リアル体験やイベントとデジタル体験の統合を得意領域としている。
海司 昌弘 氏
MS&ADインターリスク総研株式会社
デジタルイノベーション本部 主席
デジタルイノベーション推進部長
大学で保険法を専攻後、1994年に現三井住友海上に入社。 2000年にリスクマネジメント部門に異動後、2002年からインターリスク総研に出向。 2006年から2度、通算14年の中国での駐在(インターリスク上海の 総経理、三井住友海上中国の営業統括)を経て、2022年から現職、RM NAVI開発プロジェクトのPM職を担当。
山田 尚利 氏
MS&ADインターリスク総研株式会社
デジタルイノベーション本部 DI推進部 開発第二グループ マネージャー
インフラ系のシステムエンジニアやセールスエンジニアを6年務めた後、大手デベロッパーの情報システム部門にて社内SE。 現在のDXにつながる「攻めのIT」の取り組みで、オフィスビルや商業施設でのAIやIoT、ロボットなどを活用した実証実験を推進。 その後大手家電量販店でAWSへのリフト&シフト推進や基幹系システムのリプレース等を経て、2021年より現職、RM NAVI開発プロジェクトのPL職を担当。
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。