最終更新日 2024.8.13

今、買物欲をつかんでKEEPするツボとは(買物欲で捉える今の潮流と未来の兆し~買物の“主導権”を再び取り戻し始めた生活者を紐解く vol.2)|ウェビナーレポート

2024年411日、博報堂買物研究所の生活者調査から見えた、新たな買物潮流や買物欲のツボを紹介するウェビナーを実施しました。

EC通販の普及、SNS利用の拡大、コロナ禍の影響などによって、買物の仕方が大きく変化するなか、博報堂買物研究所設立20周年を機に行った「買物欲大調査」。多くの企業が注目する「買物」というテーマということもあり、沢山の方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。

ウェビナーでは、生活者のニーズや買物行動が掴みづらくなっているなか、今の時代の買物行動の変化や、“買いたい”気持ちの作り方、新たな買物欲のツボなどについて紹介しました。

Vol.2の本記事では、買物欲を刺激する20のツボをさらに別観点から掘り下げ、重要なポイントを明らかにします。

 

前編はこちら⇒ウェビナーレポート|買物欲で捉える今の潮流と未来の兆し~買物の“主導権”を再び取り戻し始めた生活者を紐解く vol.1(博報堂買物研究所 設立20周年記念セミナー) 

買物欲マーケティングにご関心のある方へ
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目次

今、買物欲をつかんでKEEPするツボとは~「絶対値」の観点から

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では次に、ここまでご紹介した買物欲刺激のツボを、2つの観点から、より詳しく見ていきたいと思います。

1つは「絶対値」の観点です。定量的なWebアンケートを活用して、今の生活者の買物ニーズを見ていきます。もう1つは「成長率」の観点です。SNSでの、買物欲刺激のツボに関連する投稿を時系列的に見ることで、未来の兆しを捉えたいと思います。

まずは「絶対値」からツボを見ていきます。定量Webアンケートの結果を解析すると、以下の通り買物欲をつかんでKEEPするタイプの5つのツボが上位に並びました。

  • 「損失回避」
  • 「選択感」
  • 「フリクションレス」
  • 「マイペース」
  • 「信頼感」

買物研究所が実施した生活者インタビューでも、「ネガティブな体験がなくて、当初期待していたことに対して納得できることが良い買物である」という発言もありました。

ネガティブがなくKEEPするタイプのツボが、生活者の現在のニーズを捉えていると考えられます。

さらに踏み込んで、買いたい気持ちをつかんで逃さないための2つの代表的なツボ、「損失回避」と「フリクションレス」について紐解いていきます。

「損失回避」のツボ

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まず、買物での失敗や損失を回避したいと思う性質、「損失回避」です。生活者は、失敗リスクがないことに確証が持てないと買いたくないと思っています。

例えば、EC通販で買うと現品が見られないので、サイズ感や、ほつれ、試着痕が大丈夫か不安で、買いたい気持ちが下がることがあります。SNSの投稿でも、「選んだものに自信が持てず、買物で失敗するのが怖い」など、買物における失敗を恐れている様子が伺えます。

生活者インタビューでは、「ネガティブな口コミを見て、自分が許容できるかどうか」(30代女性)を調べたり、「損をしないように価格推移を確認しながら、安いタイミングをチェックする」(30代男性)など、多岐にわたる工夫をしているようです。

「フリクションレス」のツボ

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続いて、もう1つのKEEP系の代表的なツボ「フリクションレス」は、物理的・心理的な労力をかけずに、シンプルかつスムーズに買いたいと思う性質を指します。

「フリクションレス」も、生活者のSNS投稿から気持ちを探りました。例えば「普段行かないスーパーに行ったらどこに何があるかわからず、ストレスだった」という声が見られており、品ぞろえの“良さ”でさえ状況によっては、買い手のストレスに繋がるようです。

また、生活者インタビューでは、「どうせ買うならいいものを買いたいから口コミを調べるが、それによって時間かかってしまう」(30代女性)といった意見も見られました。スマートフォンが普及して、SNS閲覧などで情報量が増えたことで、かえって生活者がストレスを感じている様子がうかがわれます。

「買いたい」気持ちをBOOSTするツボ~「成長率」の観点から

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ここまでは、「絶対値」の観点で、現在の買い手にとっての買物欲刺激のツボを見てきましたが、次に「成長率」の観点でそれぞれのツボを見てみたいと思います。

今回は、TBWA/HAKUHODOのソーシャルリスニング特化型コンサルティングチーム「65dB TOKYO」にご協力いただき、ソーシャルリスニング、X(旧Twitter)の投稿を分析しました。

SNSはリアルタイム性が強く、生活者トレンドをいち早く捉えることが可能であると同時に、潜在的な話題にとどまっていて、ニュースでは取り上げられていないような小さな変化も観測可能です。

はじめに、買物関連のXの投稿の勢いを確認しました。Xの投稿全量に対して、買物関連の投稿のシェアを2016年から追いましたが、2016年のシェアを100とすると、新型コロナ発生の20年は133までシェアが高まっています。

その後、2022年にかけてやや下がったものの、2023年には138となっており、全体として、買物に関連する投稿は増えていて、生活者の買物に関する興味は高まっていると言えそうです。

また、各ツボの推移をX投稿から見ていくにあたり、「Brand Watch」というツールを使い、過去10年間にさかのぼって分析しました。買物欲のツボごとに投稿を分類するために、広くターゲットキーワードを設定することで、顕在的なトピックだけではなく、潜在的なトピックまで分析しています。

こうした分析の結果、「成長率」の観点から、今伸びている買物欲のツボは、

  • 「ストーリー性」
  • 「偏愛性」
  • 「選択感」
  • 「学習心」
  • 「自己投資」

5つであることがわかりました。これらはどれも、BOOSTタイプのツボで、成長率の観点から、今後の買物欲を見つめたキーワードは、「買いたい気持ちを盛り上げる」ことだと言えます。

では、この中でも特に代表的なツボ、「偏愛性」と「ストーリー性」について、さらに詳しく見ていきたいと思います。

「偏愛性」のツボ

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まず、自分の好きを表現できると買いたくなる、という定義の「偏愛性」です。

このツボは、「商品や売り場が好きなキャラクターやその対象と関連がある」「商品の購入を通して、推しや、大好きな対象を応援することができる」などが構成要素となります。

その他、例えばチャットの投げ銭だったり、初期ロットの商品を所有していて、それを投稿することで対象への自分の思いの強さを、他人と比較できることなどが構成要素になります。

また、生活者のSNS投稿ですが、例えば、
「推しがイメージキャラクターをしていたから、それだけであるチェーンの食事が増えた」
「色を迷ったときに自分の推しに関連するカラーの商品を選んだ」
「推しが発言していれば、食料品も買うし化粧品も買い込んでしまう」
「推しの住んでいるエリアに関連するものまで買ってしまう」
という声が見られました。

こういった声から生活者の熱い思いが垣間見え、成長率の観点で「偏愛性」が伸びていることが納得できます。「偏愛性」が高まった背景について、X上での関連投稿数の推移から掘り下げると、2019年から2020年の間で関連投稿の数が一気に増えたことが見てとれます。

元々アイドルを中心に推しの概念が存在していましたが、2016年から2019年、2020年の急激な伸びは、コロナ禍をきっかけとしたムーブメントだと推測されます。さらに2021年には流行語に「推し活」がノミネートされています。

ただし、その投稿内容には変化も見られます。2020年はまさに転換期で、コロナ禍でライブなどのリアルイベントが中止となり、生活者側が推しへの思いを募らせた1年間でした。ところが2022年になると、「ファン同士のマウンティングに疲れた」という投稿や、非公式グッズやグッズの転売に関連する投稿が増え、いわゆる“推し疲れ”という現象が顕在化しました。

そうした時期を経て、直近の2023年では、自分のペースでの楽しみ方を徐々に取り入れていたり、多様化が進んでいるフェーズとなっているようです。投稿の中身を見ても、全財産を注ぎ込むような極端な考え方ではなく、良い距離感を保って生活に推しを取り入れている人が増えている印象があります。

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「偏愛性」のこれからの兆しを考えると、推しを応援するための消費と、自分のためにもなる消費のパワーバランスの変化が見えてきました。

相手への貢献や応援から、自分のための行動へと拡大していることも読み取れます。偏愛している相手のためにお金を使ったり、グッズを買うといった直接的な貢献から、偏愛している相手を日常に感じるために、あらゆるものを偏愛と結び付けて自分のために行う行動へと変化していることが読み取れます。実際、2021年には、応援還元文脈の投稿が一時的に減少し、その一方で日常文脈の投稿が増加しています。

「推し」は、アイドルや漫画などのオタク文化から始まった概念ですが、現在では地域やメーカー、農家なども対象になっています。「偏愛」の対象は身の回りにも広がっていて、例えば、生まれた子供の足形をキーホルダーにしたり、自分のペットのアクリルスタンドを作るなど、新しい兆しも見られます。

ここで、「偏愛性」のこれからの兆しを踏まえたマーケティングのヒントをご紹介します。それは、生活者が自ら解釈して偏愛性を発揮するための“余白”や、“引っかかりポイント”を用意することです。

例えば、革靴の特集とレザーバッグの特集というふうに、それぞれ販促テーマを設定するよりも、“レザー特集”というように、幅広いテーマを設定することで、革靴ファンやバッグマニア、皮革にこだわりがある人、ビジネス用品を揃えたいビジネスパーソンなど、幅広い人々に興味を持ってもらうことができます。

このように、解釈の余白を残して幅広い層の興味を包括できるような設計は、一つのスキームが他のスキームの連鎖を作るためにも有効かもしれません。

また、プロセスや詳細を公開して偏愛できるポイントを生活者側に探してもらうというアイデアもあり、生活者の偏愛の琴線に触れるポイントがたくさん用意できます。

「ストーリー性」のツボ

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次に、BOOST系のツボ、「ストーリー性」についてご紹介します。

「ストーリー性」は、“らしさが伝わり、共感して買物したくなる”という定義のツボで、商品や売り場にストーリー性を感じたり、企業ブランドのコンセプトが感じられたり、商品や売り場、接客に独自性を感じる、そういった要素から構成されます。

例えば、店舗の内装や商品が、すべて黒で統一されていることで一貫性のあるコンセプトを感じたり、“おもちゃ”ではなく“遊び道具”を提供するというスタンスや思いに共感して、買いたい気持ちが高まるなど、様々な例があります。

「ストーリー性」も生活者のSNS投稿から気持ちを探りましたが、買物関連投稿に含まれる「ストーリー性」投稿の割合は、2019年を100とすると約3倍まで伸びています。ストーリー性のこれからの兆しを探ると、「没入体験」というキーワードが挙げられます。

つまり、これからは、共感するだけではなく、ブランドや売り場体験に没入してもらうことで、買いたい気持ちが生まれやすくなるのではないでしょうか。

例えば、自分があるストーリーの登場人物になっているかのような感覚が味わえる、体験型のエンターテインメントなどがその一例です。

実在するホテルに滞在しながら体験する没入型の演劇や、友人のような距離感をコンセプトとした飲食店、サイト上で物語を読み、その物語をイメージしながら買物を味わえるECサイトなど、ストーリーに没入できる瞬間を提供することで、買いたい気持ちをより高める好事例が生まれています。

以上、買物欲大調査の結果から、生活者が今重視しているのはKEEPタイプのツボで、これからの成長率の観点で注目すべきなのはBOOSTタイプのツボであることがわかりました。

次のパネルディスカッションのパートでは、有識者の方々の意見も交えながら、未来の買物体験について、より議論を深めていきたいと思います。

 

レポート続編はこちらから⇒ウェビナーレポート|買物潮流の見立てと今の生活者にとってのいい買物体験とは?(買物欲で捉える今の潮流と未来の兆し~買物の“主導権”を再び取り戻し始めた生活者を紐解く vol.3) 

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