「ソリューション営業は終わった」
数年前、DIAMOND社の「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載された論文です。
多くの企業が「課題解決型営業・ソリューション営業」を身につけることを営業部門の解決すべき課題として掲げる中でこの見出しで始まるアプローチは相当なインパクトがありました。
それから2年と少し経ち、2014年の「ハーバード・ビジネス・レビュー」7月号では、同じ著者による新たな論文が寄稿されていました。
そのタイトルは「ソリューション営業からインサイト営業へ」というものでした。
セレブリックスは営業コンサルティング会社という立ち位置で、年間100社を超える企業の営業組織を対象にした営業教育事業を行っております。
業種や業界の垣根を越えて様々な商材を扱う企業様の営業現場に足を運ぶと、企業が提供するサービスの受注及び失注要因が、ここ最近は益々営業個人のスキルや能力に依存する傾向にあると強く感じております。
こうした現代の営業課題を解決する1つの営業手段として「インサイト営業」という手法は非常に有効であると感じましたため、このコラムでは、この「インサイト営業」について詳しく弊社なりの見解で解説をしていきたいと思います。
目次
変化の渦中にある「顧客の状態」
現在「営業組織」及び「営業パーソン」が相対する「顧客の状態」は大きな変化の真っただ中にあります。
※一部ではこの変化を、Web2.0に倣って営業2.0と呼んでいたりもします。
「変化の渦中にいるとその変化に気付き辛い」というのはよく言われることですが、経営者・営業責任者・優秀な営業パーソンは気付かれている方もおられることでしょう。
「顧客の状態」の変化
では、具体的に「顧客の状態」の変化とはどのような内容なのでしょうか。
それは、顧客が「自社(自身)の課題のみならず、その解決策までをも把握している」ということです。
一昔前、それこそ課題解決型営業、ソリューション営業という手法が巷を賑わしていた時代においては、顧客は「自社(自身)の課題については把握しているがその解決策までは把握していない」という状態にありました。
だからこそ顧客の課題を掴み、その課題に対する解決策としての自社商品やサービスを、「最適な提案」という形で提供する営業スタイルが重宝されてきたのです。
顧客の状態の変化が起こっている理由
では何故「顧客の状態変化」が起こっているのでしょうか。
原因は様々ありますが、その最大要因は「IT(情報通信)技術の発達による情報収集スピードの向上」でしょう。
このIT技術の発達により、顧客はいつでもどこでも、従来の何倍ものスピードで正確に情報を検索し、入手することが出来るようになったのです。また様々なシステムを導入し、複雑なデータ分析なども自社で容易に実施できる環境を整えている企業も数多く出現してきました。
自社の課題と解決策を明確にした顧客は、その解決策を特定した上で比較検討を実施するようになりました。これにより「最適な提案」を行うソリューション営業スタイルが実施し辛くなってきているのです。
「最適な提案」による差別化が図り辛くなると、当然価格勝負に陥り易くなり営業プロセス上のKPI※1(Key Performance Indicators)にもマイナス変化が見て取れるようになってくるでしょう。
もちろん世の中の全ての会社の状態が変化している訳ではありません。
だが渦中にある今だからこそ、今までのようなソリューション営業のスタイルだけではなく先手を打って変化に対応した新たな営業スタイルを身につけていかなければならないのではないでしょうか。
この新しい営業スタイルこそがインサイト営業と呼ばれるものである。
このインサイト営業スタイルは、今後の「営業組織」及び「営業職」に求められる、必須スタイルとなる予感がしております。
※KPI( Key Performance Indicators)
→重要業績評価指標と言い組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準群を指す。
インサイト営業スタイルとは
インサイト(Insight)とは、直訳すると「洞察、見識」のことを差します。
インサイト営業スタイルとは「顧客すら気づいていない顧客の課題」を見つけ、顧客と合意する営業プロセスを指しています。
先にも記述しましたが、顧客側が課題を明確にし、解決策までを特定しているケースが増えている昨今、「顧客すら気づいていない顧客の課題」など、はたして存在するのかと考えられる方もいらっしゃるかもしれません。
顧客すら気づいていない顧客の課題
経験則から申し上げると、「顧客すら気づいていない顧客の課題」はほぼ100%の確率で顧客の中に存在します。
魚に海が見えないように、鳥に空が見えないように、人間には自分が見えず、企業には組織が見えないものだとはよく言ったものですね。
組織内にいると中々客観的に、俯瞰して自社を見つめ直し、課題を余すことなく正確に抽出するということは容易ではありません。
顧客が特定している課題には穴がある
つまりここで申し上げたいのは、「顧客が特定している課題には穴がある」ということです。
例えば採用に課題があると思いきや、教育により深い課題があったり人事制度に課題があると思いきや、職場の人間関係により深い課題があったりという話はよく聞く話です。
我々営業パーソンは、自社のソリューションが解決できる課題を明確に理解しています。
だからこそ、自社のソリューションが嵌め込める事実を聞き出すために、ある意味で顧客に誘導尋問をしているのです。
しかしながらトップセールスと呼ばれる優秀な営業パーソンは意図的に行っているかはさておき、自社のソリューションを特定せずにフラットに顧客の課題を掴もうとしています。
帰納法的に決めれたゴール(自社ソリューションによる課題解決)から逆算してヒアリングを行うのではなく、演繹法的に顧客の客観的事実から課題を探していくスタイル、これが正にインサイト営業であると言えるでしょう。
ヒアリングの結果、課題は自社ソリューションでは解決できないこともあるかもしれません。
しかし顧客は自分たちだけでは辿り着くことが出来なかった真の課題の発見に貢献してくれた目の前の優秀な営業パーソンとの関係を決して切らすことは無いでしょう。
従来の王道の営業スタイルであるソリューション営業スタイルとインサイト営業スタイルとの違いは「ハーバード・ビジネス・レビュー」2012年12月号にて下記のようにまとめられていたので参照します。
インサイト営業スタイルにおいては「いかに上手に課題を聞き出すか」ではなく「いかに顧客を指摘(指導)出来るか」に重点が置かれていることがお分かりになるでしょう。
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インサイト営業スタイルの習得に向けて
ここでは営業責任者向けに、営業パーソンを従来型の営業スタイルからインサイト営業スタイルに変換させるためのポイントを簡単に解説していきたいと思います。
大きくは3つのポイントに大別されます。
1.スタンスの醸成
インサイト営業スタイルにおいては、顧客の真の課題発見に向けて、時には顧客以上に顧客のことを考えなければなりません。そういった意味では、「売る」というスタンスからある意味脱却し、「顧客を想う」スタンスに移行しなければならないでしょう。
本気で顧客のことを思うが故に衝突することもあるかもしれません。
メンバーにこのようなスタンスの醸成を行うには「営業責任者自らがやってみせる」ことが最も手っ取り早いでしょう。現場で実際に顧客と距離を縮めていく様を見てメンバーのスタンスは醸成されていくのです。
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2.ロールプレイング
職業柄、様々な企業から営業力を強化するための方法を聞かれますが営業力を強化する施策は【ロールプレイング】に尽きます。
営業力が高いと評される会社では、日常茶飯事のようにロールプレイングが行われています。ロールプレイングを通じて、主観を排除し、客観的に事実を収集する「ファクトファインディング力」、課題の合意に至るまでの「合意形成力」、想いを言葉に乗せて顧客に伝える「伝達力」等は磨かれていきます。
成功体験と失敗体験の数が営業パーソンの「厚み」を生み出します。
是非ロールプレイングを通じた疑似体験で、徹底的に鍛え上げてください。
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3.個社別の案件プレビュー
個社別の商談を、時間を取って1つ1つ棚卸をしてみてください。
あなたの組織の営業パーソンは顧客の言葉の裏側にある想いや背景をしっかりと掴めていますか。顧客の客観的事実は数字で把握できていますか。
もし抜け漏れがあった場合には、営業パーソンに「聞かなかったのか」それとも「聞けなかったのか」を確認しましょう。それによって講じる次の一手は異なります。
以上の3つを何度も反復し、1つ1つのレベルを高めていくことこそがインサイト営業スタイル確立の必須条件です。
しかし上記に記載したこれらのポイントは営業責任者がインサイト営業スタイルを実践でき且つ指導できるレベルになっていることが前提です。
営業組織においては、営業パーソン時代に高い営業成果を創って営業責任者に昇格するパターンが一般的ですので、営業責任者の方は意識的にか無意識のうちにかは別として、沢山の営業経験からインサイト営業スタイルを実践できるレベルにおられるかもしれません。
しかしながら、そのスタイルを誰にでも分かるように指導することは難易度が高いとお感じではないでしょうか。
このインサイト営業スタイル習得に向けたPDCAを社内でしっかりと高速回転させることが出来れば、顧客に選ばれ続ける強い営業組織となり、営業パーソンで差別化を図ることができるようになるでしょう。
余談ですが弊社では、今回解説したインサイト営業スタイルを身に付けるための営業パーソン向けの営業研修や営業責任者向けの営業マネジメント研修を始めとした各種サービスを提供しております。
まとめ
さて、今回のコラムでは、ハーバードビジネスレビューでも取り上げられたトレンドキーワードであるインサイト営業スタイルについての解説を行いましたがいかがでしたでしょうか。
誤解の無い様にお伝えしておきますが、インサイト営業スタイルもソリューション営業スタイルもあくまでも営業における商談展開の仕方の1つです。
営業は生き物ですから、同じ会社に営業をしていても、商談する相手が変われば商談の流れも全く異なるものになります。
そんな中で我々営業パーソンが大事にしなければならないのは、いつでも・どこでも・誰にでも常に「価値」を提供できる人材であることです。
「価値」の提供方法は様々ですが、我々営業パーソンが最も商談をしたい相手となる決裁者クラスほど、沢山の問題意識や課題感を持っています。
またその問題意識や課題感は複層的に絡み合い、複雑化しています。更には事業展開のスピードも日を追うごとに増していく今のご時世です。
決裁者の仕事は「ジャッジをすること」ですが、決裁者たちはどこかでその「ジャッジ」に異を唱えて欲しかったり、客観的に意見が欲しかったりするものです。
だからこそ、我々営業パーソンは、決裁者の新のパートナーにならなくてはならないのです。
彼らの求める真のパートナーとは自社ソリューションを提案してくれる営業パーソンではなく彼らと共に課題発見に本気で向き合ってくれる営業パーソンです。
この顧客の課題発見に本気で向き合う姿勢こそが、インサイト営業スタイルそのものなのではないか、と私は思います。
是非本コラムをお読みの全ての営業に関わる皆様と皆様の営業組織が顧客に真の「価値」を提供できる、選ばれる個人及び組織になられることを願っております。
松澤真太郎
人材教育コンサルティング職を経て2005年にセレブリックスに入社。
採用支援事業、教育研修事業、営業代行事業等、社内の様々な部署の営業・営業リーダーを歴任。人材教育コンサルティング職を経て2005年にセレブリックスに入社。