多くの企業では、質の高い営業スタッフの確保や接客スキルの向上に課題を抱えています。博報堂の調査によると、営業スタッフの商談スキルについて「重要だと思う」と回答した企業は96%に達したものの、商談スキルの教育が十分に行えていると回答した企業の割合は23.7%にとどまっています。
つまり、75%以上の企業で商談スキルの教育が十分に行えていないのです。こうした課題に対し、どう取り組めばいいのでしょうか。
2023年3月10日に実施されたウェビナー「ITで営業スタッフの接客品質を向上させるオンライン接客ロープレサービス~自動車ディーラー社長と語る営業DXと販売現場の課題~」から、そのヒントを探ってみます。
目次
多くの企業が抱える「営業スタッフの商談スキルをどう高めるか」という課題
商談スキルを向上させ、商談の質を高めるには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。博報堂の調査では、商談スキルを高める施策・方法として約7割の企業が「ロープレ(ロールプレイング)」を実施し、約8割の企業がその有用性や効果を認めています。
つまり、多くの企業がロールプレイングを活用しているのですが、その実施にあたっては課題も感じているようです。「設定作りが大変でマンネリ化してしまう」「知っている人同士だと緊張感が生まれない」「先輩の癖で指導してしまう」「忙しくてロープレの時間が取れない」といった声が聞かれているのです。
オンライン接客ロープレサービスとは
こうした課題を解決するため、博報堂の顧客接点専門チーム「gmove」では「オンライン接客ロープレサービス」を提供しています。これは、ロープレのシナリオ作成、ロープレパートナー(お客様役)の育成、接客技術評価指標の作成、オンライン受講環境の構築、そしてロープレ内容のフィードバックまでのワンストップサービス。営業スタッフはいつでも好きな時間に、自分のデスクに座りながらオンラインでリアルなお客様役とロープレを実施できるのです。
自動車販売会社におけるオンライン接客ロープレサービスの活用例
オンライン接客ロープレサービスの自動車販売における活用例を紹介しましょう。オンライン接客ロープレサービスでは、まず想定するお客様のプロフィールや接客シチュエーション、そして「接客のゴール」を設定し、営業スタッフと共有します。具体的には次のようになります。
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一方でお客様役となるロープレパートナーには、「荷物を多く積みたい」「走行性能にこだわりたい」「月々の支払いを抑えたい」といったニーズをランダムに設定することで、「リアルなお客様」を演じられるようにします。リアルな設定のもとにロープレをすることで、接客のゴールを達成するスキルの習得が可能となるのです。
自動車ディーラーにおけるロープレ実施例
定性的な「態度評価」「能力評価」とAIによる定量的な評価をフィードバック
オンライン接客ロープレサービスの特長は、ロープレ内容をもとにした評価を営業スタッフにフィードバックできることです。ロープレパートナーが、「態度評価」と「能力評価」の2つの指標で定性的に評価します。態度評価とは言葉遣いや挨拶をはじめ、お客様本位の姿勢となっているかといった「態度」の評価です。能力評価とは説明力や専門的な情報力、提案力などです。
態度評価と能力評価はロープレパートナーの定性的な評価ですが、ロープレ内容を客観的に定量的に評価する仕組みも備えています。それが、ロープレ動画を録画し音声分析AIによる評価です。具体的には、営業スタッフの発話時間比率や声の周波数、メリハリ、キーフレーズ解析などを観測項目として採点しています。
たとえば、営業スタッフの発話時間比率が高いと「喋りすぎ」の傾向がある、声の周波数の変動幅が大きいと「抑揚のある喋り方ができている」というように分析できます。また、「あのー」「ちょっと」といったフレーズを解析することで、喋り方の癖を客観的に認識し改善に役立てることもできます。
一般的な営業研修とオンライン接客ロープレの比較
次に一般的な営業研修と比較してどのような違いがあるのか、表にまとめてみました。
一般的な営業研修 |
オンラインロープレ |
オンラインロープレのメリット |
集団で受講 |
個別で受講 |
研修を自分ごと化しやすい |
セミナー会場で長時間拘束 |
オンラインで1回あたり25分のロープレ |
業務の隙間時間で受講できる |
汎用的な営業スキル |
具体的な商談を想定 |
実際の商談に近いので即効性がある |
講師は営業のプロ |
ロープレパートナーは顧客のプロ |
お客様視点でのフィードバックがもらえる |
オンライン接客ロープレは1回あたりの実施時間が25分程度と短いため、業務の隙間時間を有効活用できるほか、実際の商談を想定してトレーニングを行うため即効性も期待できます。
また、オンラインロープレはロープレの様子を動画で残せるので、優秀な営業スタッフのロープレを社内で共有できるといったメリットもあります。
gmoveでは、ロープレパートナーの教育やシナリオ作成、音声分析AIを活用した評価分析までワンストップで提供しています。例にあげた自動車販売会社以外にも、幅広い業種の企業での活用も可能です。
博報堂オンライン接客ロープレ事業チームの果たす役割
事業環境の変化に応じた商談スキルの習得 ~ホンダカーズ岐阜の事例~
それでは、実際にオンライン接客ロープレサービスを活用し、営業スタッフの教育に役立てているホンダカーズ岐阜の取り組みを紹介します。
ホンダカーズ岐阜はホンダ正規ディーラーで、新車・中古車の販売や車検・点検・整備・修理などを手掛けています。
岐阜県は世帯あたりの乗用車保有台数が1.55台と他の地域と比べて多く、1世帯で複数台の自動車を保有するケースも珍しくありません。岐阜県において地域の交通手段として自動車は重要な役割を果たしていますが、同社では近年になってさまざまな課題や問題を肌で感じるようになってきたといいます。
大変革期に突入している自動車業界
その変化とは、自動車のサブスクリプションサービスやカーシェアリングなど自動車の購入・利用方法の多様化、コネクテッドカーなど新たなコンセプトの自動車の登場、さらにはMaaS(Mobility as a Service)を見据えたさまざまな取り組みの加速など、自動車販売業界を取り巻く環境の変化です。
自動車販売業界を取り巻く環境変化
とりわけ、自動車販売会社として強く感じていたのは、オフラインとオンラインの住み分けが進んできたこと。インターネットが普及した現在、自動車に関する基本的な情報収集はオンラインで行うユーザーが大半を占めています。
こうした環境変化の中にあって同社では今後、新車販売の減少と中古車販売の増加、点検修理業務の高度化と効率化、自動車に付加される新たなサービスの手数料収入の増大など、収益構造が変化していくことを予測していました。
自動車販売店の収益構造の変化
営業スタッフの育成プログラムにオンライン接客ロープレを組み込む
自動車販売業を取り巻く環境の変化とあわせて、お客様の購買行動や考え方の変化も顕著です。
これまでは、お客様が「どの車に乗るか」という基準や価値観で自動車の購入を検討するケースが多かったのですが、現在では車種を比較するのではなく「その車で何ができるか」、「どんなライフスタイルを実現できるのか」といった視点で検討するお客様が増えています。自動車販売店の営業スタッフにはその車で実現できるライフスタイルなどについて、「プロの視点でのアドバイス」や、そのライフスタイルを実現できる新たなサービスの提案などが求められるようになったのです。
環境変化に伴うディーラーの課題
こうした変化の中で営業スタッフには、単に商品知識を覚えさせるだけでない、客観性の高い接客トレーニングを継続的に実施していく必要がありました。ホンダカーズ岐阜では、こうした営業スタッフの育成プログラムにオンライン接客ロープレを組み込み、活用しているのです。
オンライン接客ロープレサービスは今後、多くの業種で活用できる
オンライン接客ロープレサービスは今後多くの業種で活用できるプラットフォームです。特に、お客様との対面商談や対面販売が効果的な商品・サービスを扱う業種・企業ほど高いニーズが期待できるでしょう。
具体的には、高額・高付加価値の商品特性のある自動車販売はもちろん、高いリテラシーが求められる生命保険や損害保険および金融商品の販売、個別ニーズへの臨機応変な対応が求められる不動産販売や教育サービス、嗜好性の高いブランド品や化粧品の販売など、ユースケースはさまざまです。
たとえ商品特性や業種は異なっていても、これらの商品・サービスの販売にあたっては日常的なロープレ、新商品導入時の研修、新人研修などが不可欠であることは間違いありません。オンライン接客ロープレサービスは、さまざまな実施・導入形態にカスタマイズできることから、人材育成のさまざまな場面で活用していけると考えています。
お客様や営業スタッフの特性に合わせた最適な商談スタイルを実現
また、オンライン接客ロープレサービスを活用することで、お客様の特性や営業スタッフの特性に合わせた商談スタイルを実現できるようにもなります。ロープレの動画をAIによって音声解析したところ、成績の良い営業スタッフにも、大きく「傾聴型商談スタイル」と「主導型商談スタイル」が存在することがわかりました。
傾聴型商談スタイルは、営業スタッフの発話時間比率が低くお客様からの質問数が多い傾向がある一方で、主導型商談スタイルは発話時間比率が高くお客様からの質問数が少ない傾向が見られました。
オンライン接客ロープレサービスを活用することにより、営業スタッフ本人の特性やお客様の特徴に合わせた商談スタイルを最適化できると同時に、両方の特性を兼ね備えた営業スタッフを教育することも期待できるでしょう。営業スタッフ自身が商談を客観的に認識し、取り扱う商材やお客様の特性をもとに商談スキルを適正化することにより、これまで以上に質の高い商談が実現できると期待されます。
商談品質の向上はスマイルカーブ上昇の原動力
高度経済成長期に比べてさまざまな製品が世の中に溢れている現在、バリューチェーンの各領域における収益を考えると、製造・組立の領域での収益性は低下し、反対に企画・開発や販売・アフターサービスの領域の収益性が向上しています。
製品やサービスの企画・開発、製造、組立、販売、アフターサービスまでの一連のプロセスを細分化し、それぞれの収益性をグラフで示したものをスマイルカーブと呼びますが、そのスマイルカーブを「上方向にシフトする」、つまり収益性を高める原動力となるのが「質の高い商談スキル」です。
収益の多層化が進み顧客LTV向上が求められるさまざまな業界において、商談品質の向上がこれまで以上に重要となっているのです。
博報堂自主調査 |
金野 敏和(かねの としかず)
株式会社博報堂 gmove
2005年博報堂入社。自動車・流通業界などでビジネスプロデューサーとして活動後、現在は博報堂顧客接点専門チーム「gmove」の代表としてSMSソリューションをはじめ、さまざまなソリューション・サービスを開発している。
宮坂 恒介(みやさか こうすけ)
株式会社博報堂 gmove
1988年博報堂入社。ストラテジックプランナーとして自動車・金融業界などの国内外のマーケティング・ブランディングを担当。さらに、顧客体験接点・事業戦略策定・インナーブランディングなど幅広い経験で企業の成長戦略をサポートしている。