2024年9月19日、今注目されている「リテールメディア」に関するウェビナーを実施しました。カバヤ食品・東急ストア・三菱食品・博報堂の4社の業界の専門家たちが登壇するということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
ウェビナーでは、リテール市場を取り巻く環境やメーカーが抱える課題、そして課題解決に向けてどのように取り組んでいるかなど、実際の事例を基にした貴重なデータと共に解説していただきました。
登壇者
鈴木 義文 氏(カバヤ食品 トレードマーケティング本部長)
山口 修平 氏(東急ストア 営業本部MD企画部 マーケティング課長)
三嶋 洸平 氏(三菱食品 メーカーソリューショングループ)
小島 健嗣(博報堂 コマースコンサルティング局グループマネージャー)※進行
※以下、敬称略
目次
リテール業界を取り巻く環境変化
小島 本日は、メーカー・広告主を代表してカバヤ食品、実際の売り場を持ちデータを提供するスーパーマーケットの東急ストア、各リテールを束ねてソリューションを提供したり売り場の支援を担う食品卸事業社の三菱食品、そして、その3社を繋ぐ形でプランニングやソリューションの提供をさせていただく博報堂という4社が集い、いまホットなテーマである「リテールメディア」についてお話していきたいと思います。
早速ですが、具体的なソリューションの話に入る前に、スーパーマーケットを中心としたリテール業界を取り巻く環境の変化について、三菱食品の三嶋さんからお話いただきたいと思います。
食品消費支出の縮小
三嶋 まず一般論から申し上げると、人口減少により、食品消費支出は縮小傾向にあり、いままで以上に、生活者のニーズを捉えた新たな挑戦が必要不可欠になっています。
ロイヤリティ(愛着心)が低い
三嶋 また食品スーパーは、ヘビーユーザーの割合が高い一方で、ロイヤリティ(愛着心)という面では、生協やドラッグストアなどよりも低い傾向にあり、今後は様々なアプローチで愛着心を高めていくことに業界全体のチャンスがあると考えられます。
労働人口の減少
三嶋 労働人口の減少も食品スーパーが直面する大きな課題です。とくにスーパーマーケットにおいては、店員スタッフの業務負担軽減などから、店頭店内でのプロモーションの標準化が、一層推進されることが想定されています。
その一方で実際の売り場で見ると、PB(プライベートブランド)などの商品や販促手法は増えているので、生活者との新たなコミュニケーション手段としてもリテールメディアの活用が有効であると考えています。
生活者の食品購入ジャーニーが多様化
三嶋 さらに、生活者の食品購入ジャーニーが多様化しているという実態も見逃せません。やはり食品という特性から、購入においてはリアルが9割近くを占めますが、認知・興味関心フェーズではデジタルも一定数存在しており、さらに比較・検討フェーズにおいては構成比が高まっています。
これらのことから、リテール各社もリアルとデジタル双方のアプローチを駆使して、生活者との接点を増やす必要があると考えています。
小島 実際に、PB含むブランドのロングテール化とか、店頭販促のレギュレーションに関しても、以前より厳しくなってきていますよね。今ご紹介いただいた課題に関して、リテールの目線でとらえるといかがでしょう?
山口 いろいろ課題はありますが、大きく3つのポイントがあると考えています。
オムニチャネルの重要性
山口 まず1つ目は「オムニチャネルの重要性」ということです。フィジカルとデジタルの融合、つまり「フィジタル体験」が加速しています。
つまり、生活者はオンラインとオフラインの両方で買い物をする傾向が強まっています。特に、食品におけるオンラインの売り上げは急成長していて、私どものスーパーマーケットにおいても、オンラインとオフラインの両方でお客様の顧客体験をさらに強化していくことが重要になってきています。
持続可能性の追求
山口 2つ目は「持続可能性の追求」ということが挙げられます。今、生活者の中で持続可能な商品に対する関心が、以前よりもかなり高くなっていて、持続可能性を重視した商品、環境を考慮した商品は、どのスーパーマーケットにおいても拡大しています。
即食市場の拡大
山口 3つ目のポイントは「即食市場の拡大」です。私の肩書きに「シン・デリカプロジェクト」とあるのですが、これは簡単に言うと“デリカを変えていこう”という社内プロジェクトです。
生活者の忙しいライフスタイルに合わせて、調理済みの商品やテイクアウトの市場は急成長しています。スーパーマーケットもそうした需要に対応するために食品サービスの提供を強化しているところです。
鈴木 メーカーの目線から言わせていただくと、やはり、まだまだスーパーのメディアがチラシの延長として、値引き告知という側面が強いと感じています。今後は、興味関心層に刺さる、知的欲求を刺激するようなメディアになっていくことが求められると思います。
「リテールメディア」とは
小島 今ちょうど、メディアというお話が出たので、今回のメインテーマでもある「リテールメディア」に関して説明させていただきます。
私たちは、小売業者、リテール各社が提供している様々なメディアを総称して「リテールメディア」と定義しています。
具体的には、小売業者が保有する会員の購買データやアプリ、売り場等のアセットを活用して購買ターゲティング広告やクーポンの実施の他、店頭サイネージ等の媒体を通して、顧客との密接なコミュニケーションと効果の可視化が行えるメディアです。
小島 日本におけるリテールメディア事業の市場規模ですが、調査によると、現状220億円ほどですが、4年後には約1,400億円規模に急拡大すると予測されています。
その一方で、リテールメディア出稿予算の内訳を見ると、いわゆる各メーカーの営業部予算が圧倒的に大きく、いまだに “小売事業者への営業活動の一環” として位置づけられていることがわかります。
つまり、まだまだメディアとしての規模感が小さく、営業販促の延長線上でとらえられていることが課題だと言えます。
小島 こうした実態から、私たち博報堂は、「リテールメディア」という新たなメディアをもっと認識してもらうために、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア各社に細分化されているメディアを統合させることで、国内リテールメディアの活用を進化させていきたいと考えています。
そして、認知から購買までを統合することで、売り場への施策と効果測定をワンストップに行う “フルファネル統合” を実現するソリューションを提供しています。
リテールメディアの現状と課題
小島 リテールメディアの現状と課題に関して、メーカーあるいは小売り事業者として、実際、どんなふうにとらえていらっしゃいますか?
広告投資と効果の因果関係がわからない
鈴木 メーカーとしては、広告投資と効果の因果関係がわからないというのが一番のネックだと思っています。社内では、今までどおりマス広告一本でいいのではないかという空気もいまだにあるのも事実です。
それを解決していくために、定量的に、広告出稿と売上の因果関係が検証できるというのは、とても意義があると思います。今後、メーカーとしては、売上と広告のKPIをどう統合して、どんな効果をどんなふうに測定していくのかという知見を持たなければいけないと考えています。
“広告疲れ”や個人情報の取り扱い
山口 たしかに、現状では「リテールメディア」の市場規模はまだ小さいと思うのですが、キーワードとしては急成長しているので、小売事業者である当社の経営層も喫緊の課題だと認識しています。
新たな収益源や購買者データの活用、メーカー各社との協力関係強化など、前向きに取り組むべき課題が見えてきたのはとても有意義だと思う一方で、顧客の皆さんの “広告疲れ” やデータ活用における個人情報の取り扱いという問題点も同時にあって、なかなか難しいテーマだと思っています。
東急ストアが取り組むリテールメディア
小島 東急ストアでは経営層も旗振りをしているというお話でしたが、実際、リテールメディアに関して、どんな取り組みをされているのか、お聞かせいただけますか?
メーカー各社の良い商品を適切な形で顧客に伝える
山口 実際はまだまだ発展途上だということを前提に聞いていただきたいのですが、私たちはメーカー各社の良い商品を適切な形で顧客に伝えることを、ビジネスの主軸にしています。
簡単に言うと、リテールメディアはCXの向上策であるととらえていて、まずはそのメディアの主となる媒体を充実させて、様々なデータを取得しつつ、それをリッチなデータとして分析・活用することを主眼に置いています。
つまり、媒体とデータ分析で効果を生み出す、戦略としてのリテールメディアを全社で推進しているわけです。
パートナー企業との協業により機動的かつ継続的に運用
山口 しかも、東急ストアのリテールメディア戦略は、高い専門知識と豊かな経験を持つ三菱食品というパートナー企業との協業により、機動的かつ継続的に運用していくことを目指しています。
データ活用の広告出稿で購買効果までつなげる
山口 当社のリテールメディアの特徴は、東急沿線の生活者に向けた広告出稿を実施することができて、購買検証までつなげることができる点です。
具体的には、テレビ視聴データや位置情報データを生かして、事前にマーケットの分析をしたり、効果的な広告展開のための戦略を立案しつつターゲット層に的確にアプローチをしていくことが可能です。
また、東急沿線の生活者の行動データを分析して、クリエイティブなアイディアに落とし込み、彼らの興味を引き付ける魅力的な広告を制作することで、効果的なコミュニケーションを実現しています。
さらに、東急グループ全体としてのシナジーを活かしつつ、従来のSMリテールメディアの枠を越える豊富な出稿媒体を提供し、リッチな検証レポートで次回施策に役立つ示唆を提供することもできます。
レポート後編はこちらから⇒デジタル広告と購買データ活用のリテールメディア戦略|ウェビナーレポート(後編)
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BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。