2023年11月2日、女性の更年期に関する生活者調査から、女性たちが求めるヘルスリテラシーやインサイトなどの紹介、求められる商品やサービス、事業などを紹介するウェビナーを実施しました。 生活者の意識やSNS利用者の声を分析する、“ソーシャルリスニング”を通じた実態を明らかにする独自調査からは、事業に活用できる多くの示唆が得られ、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
ウェビナーでは、博報堂の社内横断プロジェクト「博報堂 Woman Wellness Program」と、TBWA HAKUHODOのマーケティング戦略組織「65dB(デシベル) TOKYO」から6名が登壇。
女性の更年期が「ガマンの時代から、前向きな気づきの時代へ」と変化していることを、独自の最新調査から語っていただきました。
登壇者(登場順、敬称略)
- 白根 由麻(博報堂 Woman Wellness Program)*進行
- 足立 紗希(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO)*進行
- 安並 まりや(博報堂 Woman Wellness Program)
- 前田 将吾(博報堂 Woman Wellness Program)
- 増田 実紗(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO)
- 下萩 千耀(博報堂 Woman Wellness Program)
前編はこちらから⇒ウェビナーレポート|“メノポーズ・マーケット”の未来 (後編)
目次
更年期調査vol.2 ~ソーシャルリスニング~
増田 実紗(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO)
ここからはソーシャルリスニングによる更年期調査ということで、更年期を取り巻くミドル女性や周囲の意見をもとに社会全体の潮流や今後の兆しを考えていきます。調査方法としてはソーシャルメディアであるX(旧Twitter)から更年期を含む投稿を収集し、更年期に関する発話がどれぐらいあるのか、どんな内容か、そして、どんな変化が生まれているのかというところを分析しました。
ソーシャル話題量推移
まずソーシャルの話題量の推移ですが、10年前の2012年と比較すると、更年期に関する発話は約2.3倍に増えています。
また2022年の発話量はここ10年間で最も多くなっていて、更年期への関心が少しずつ広がってきていることが見てとれました。
さらに投稿の中身に着目すると、10年前の2012年には、“これって更年期の症状なのだろうか”といった、自身の不調に対する発話が多く見受けられましたが、2022年には、芸能人やインフルエンサーのカミングアウトや、更年期障害への啓発を促す内容の投稿が増えていて、発話内容の変化も見て取れました。
具体的に、発話内容の内訳を見てみましょう。2012年には、「具体的症状・原因」に関する発話が7割以上を占めていましたが、2022年になると、全体の中で半分以下に減って、「メディア・ニュース」「仕事・キャリア」「対症療法」といった内容が増えているのがわかります。中でも、大きな変化として、「カジュアルに取り入れやすい対策を検討したい」という対症療法のサプリメントや、漢方治療に関する発話が倍増しています。
またもう1つの変化として、ネガティブな表現として使われるものが減少してきたということが挙げられます。全体の中での割合としては少ないものの、更年期世代を擁護する声や、ネガティブな表現はやめようという声、自分を戒める声が増えてきています。
発話量が増えた、4つの“兆し”テーマ
ここからは10年の間に発話量が増えた、兆しになりそうな4つのテーマをご紹介したいと思います。
まず1つ目が「メディアの発信」です。朝の情報番組で特集が組まれていたとか、更年期に関する特番がすごく良かったという声を拾っています。多くの人がこれらのメディアの影響から自身の更年期の症状を考えたりするようで、2012年と比較すると約23倍に増加していることがわかりました。
2つ目のテーマは「仕事・キャリア」です。ここでは、“更年期の症状を理由に仕事を辞めた”とか“仕事を休んでしまった”という発話を拾っています。この内容も2012年と比較すると、5倍以上も増えていますが、その具体的内容をもう少し詳細に見てみると、“情緒が不安定になってしまった”とか“ストレスでイライラしてしまった”という症状に関する内容が依然多いものの、一方で、職場の環境や、周囲の理解や人間関係に悩みが拡大してきています。今後、働くミドル女性が増える中、社会や職場環境の整備への関心が高まると同時に、課題意識も高まっていくものと思われます。
3つ目の兆しとして注目したいのが、「パートナー関係」です。これは夫婦の向き合い方を模索する男女の声という形で発話が増えているのですが、更年期をきっかけに夫婦の仲が良くなったという人がいる一方で、逆に夫婦仲が悪くなってしまったという声もあります。更年期を乗り越えていくためには、やはり身近な人との関係、身近な人と助け合っていくということが、ますます必要になってくるのではないでしょうか。
最後になりますが、4つ目のテーマは「推し活」です。こちらは先ほどまでのテーマとは少し毛色が違うのですが、好きなアイドルやキャラクターを応援する“推し”をすることで、ときめきが生まれて、更年期症状の緩和に役立つということがファンコミュニティの間で語られているケースを多く見ました。こんなふうに更年期をポジティブに捉えていくという考え方は今後も増加していく傾向にあると思われます。
ソーシャル話題比較分析~未来のメノポーズ・マーケットを考察する
足立 紗希(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO)
ここからは未来のメノポーズ・マーケットを考察する上で、女性の健康課題の別のトピックスとの比較、海外の実情との比較分析をしていきたいと思います。
まずは、女性の健康課題における1つの指標として、世の中に浸透しつつある「生理・PMS」の課題にフォーカスして、これからの更年期市場を考えていく上でのヒントを探っていきます。「生理・PMS(月経前症候群)」の発話量の推移を見ると、2012年から徐々に増加して、2014年にピークを迎えました。その後、発話量は一定量を維持していますが、発話の内容は徐々に変化し、2018年から2022年にかけては、世の中ごと化が進行しました。
こうした変化の中で私たちが着目したのは、2014年から増加した「男性の理解者の登場」です。
特に生理を解説する“男性コンテンツ”に、共感と信頼の声がかなり高まっていることがわかります。例えばNHKで放映された男性が主役の生理テーマのドラマだったり、男性のユーチューバーが生理痛が重い人の話を取り上げて発信したQ&Aコンテンツなどを通して、自分の生理に対する向き合い方が変わったとか、影響力のある人から発信してもらえると非常に嬉しいというような感謝の声が急増しています。
このように家族やパートナーといった、関わりのある周囲の人が生理に対して関心を寄せていくことで、認知や理解が深まり、今後の浸透のヒントになるのではないでしょうか。
また、前のパートでも触れたように、夫婦やパートナー関連と更年期が一緒に語られる文脈がこの10年、約6.2倍にも急増しているということから、今後は、“うちの旦那の好きなところは更年期の私の扱いがうまいこと”とか、“ホルモン治療を一緒に受診できる夫婦が理想”というようなことがカジュアルに語られるようになってくると、世の中への浸透も深まっていくと思われます。
次に、海外との比較ですが、発話量が多いのがイギリスです。
イギリスも日本同様、2012年頃は発話が少ないフェーズでしたが、2015年から右肩上がりに話題量が拡大しています。というのも、2015年から、女優のアンジェリーナ・ジョリーがカミングアウトしたりして、啓発が高まっていったことが要因として考えられます。さらに2018年からBBC等のメディアが、更年期の話題を取り上げて、広く情報展開されたことで、世の中の理解浸透が高まったと思われます。
さらに2021~2022年は、さらに世の中ごと化が進行しました。その発話の中身としては、例えばホルモン補充療法を自社の経費精算項目に追加したという企業に共感が集まったり、更年期周りのことで法改正の議論が進んだりして、文字通り、みんなの問題として取り上げられていることがわかりました。
このように、海外の先進事例を参考に、日本の現状と未来を考えると、日本はようやく「理解者の登場」フェーズに至っていると言えるのではないでしょうか。生理話題やイギリスと比較しても、日本の更年期話題は啓発に時間がかかっていると思われます。
今後はイギリスのように、メディア各局が取り上げて情報展開をするなど、生理話題のようにもっと身近なトピックスになっていくことが求められます。
クロストーク~これからのメノポーズ・マーケット
写真左から、足立 紗希(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO)、前田 将吾(博報堂 Woman Wellness Program)、安並 まりや(博報堂 Woman Wellness Program)、下萩 千耀(博報堂 Woman Wellness Program)(敬称略)
下萩 ここまで、いろいろな調査結果や分析を見てきましたが、次のパートでは、今回のウェビナーの本題である「メノポーズ・マーケットの未来」に関して少し話したいと思います。
まず私達の方で、今後のメノポーズ・マーケットの兆しを考える上で気になるキーワードを3つピックアップさせていただきました。まず1つ目は、「セルフコンパッション(自分への慈しみ)」です。
先ほどの調査結果でもお話させていただいたように、“我慢しない、無理しない”とか、“自分を思いやる”といったことが兆しとして見えたかなと思うのですが、このキーワードに関して、前田さん、いかがでしょうか?
前田 “自分を思いやる”ということで言うと、2つの方向性があると思っていて、まずは“無理をしない”ということに加えて、“苦しい中でも、できるだけリフレッシュのための時間をとる”ことや“自分の気持ちを前向きにもっていくこと”が重要かなと思いました。
足立 ときめきを補充する「推し活」など、手軽に取り入れられる選択肢が増えていくことで当事者自身の更年期に対する心理的ハードルも下がっていくし、世の中の浸透というところにも繋がっていくのではないかと思いますね。
下萩 そうですね。マイナスをゼロにするだけじゃなくて、そこからさらにプラスにする、自分でコントロールしていくというような兆しが、これからどんどん高まっていくんじゃないかなということですよね。
安並 やはり、更年期に関しては、すごく苦しいという方やつらい方もたくさんいることが、今回のインタビュー調査でもわかったのですが、これから人生の後半戦を迎える女性の皆さんは、ふつうに90歳、100歳まで生きる可能性も高いので、その後半戦に向けて、何か体をチューンナップするきっかけや機会として更年期を捉えていけるといいなというふうに思います。
下萩 ありがとうございます。次に、2つ目のキーワード「共有」に関してですが、調査の中でもパートナー関係とか、夫婦の話がいろいろ出てきました。
前田 周囲の配慮とか理解があると、更年期ともうまく付き合えるということは言えますよね。調査上には出てきていませんが、自分の妻が更年期になったことを理解できないまま、すれ違ってしまって、夫婦の関係性が悪化したという男性の声も実際にありました。そういう時に、きちんと自覚できる、きちんと自覚できるようなサービスや、夫婦で話し合える環境づくりなど、要はリテラシーだと思うのですが、受け入れて理解する土壌が必要だと思います。
足立 X(旧Twitter)上でも、パートナー関連の話題が発話量として伸びていることはかなりいい兆候だと思います。共有するためにはやはり、ご自身の自覚もそうですが、周囲の理解というのは非常に重要です。生理の話題のように、例えば“生理を語れる男性は素敵!”というように、ある種理解することがステータスのようになっていくと、年齢とか性別を超えて、更年期トピックスの自分ごと化が進行していくのではないでしょうか。
下萩 今のお話の延長線上になると思うのですが、自分自身だけじゃなくて周りの環境も大事になってくるときに、「ToG/ToE※」という3つ目のキーワードが重要になってくると思いますが、これから更年期の女性がもっと生きやすい社会になっていくための事業とかサービスをどう考えていけばいいでしょうか。
※ToG:to Governmentの略。行政・自治体レベルの取り組み。補助金の創出。ToE:to Employeeの略。企業全体における更年期リテラシーの向上。更年期に悩む従業員に対して対策商品・サービスの補助。(オンライン診療、ホルモン値チェック等)
安並 今回、海外の現状を見て、日本の方が行政の支援が進んでいることがわかりました。不妊治療が保険適用された点など、政府のサポートを通じて社会全体の理解が進んでいくひとつの兆しだと思います。
あと、企業の従業員向けの福利厚生モデルが、これからの更年期も含めたフェムテックの市場を拡大していく上では非常に重要なビジネスモデルの1つではないかと思います。
日本は公的健康保険制度が充実していることもあって、女性の健康上のマイナス面をゼロに戻すことやウェルビーイング視点での健康メンテナンスに対して積極的に投資をしないという国民性があると思います。そのときに企業の福利厚生レベルでサポートをしていくことは、すごく大事だと思いますし、ビジネスにおいてもスケールしやすいというメリットがあると思います。
足立 イギリスで、ホルモン補充療法が経費精算の項目に追加されたという施策が共感を得たという話が出ていましたが、ある意味PRの文脈で、企業のアクションが活性化されることは非常にいい傾向だと思います。
それによって世の中の関心が高まれば、必然的にメディアバリューが上がって、取り上げるメディアが増えていき、企業にも相乗効果が生まれていくのではないでしょうか。当事者にとっての過ごしやすい環境づくりという観点もそうですが、世の中の空気作りをするために、企業のアクションは非常に重要だなというふうに捉えています。
下萩 今後、企業が中心となって、各種メディアや周りの世の中とのコミュニティを作っていくというようなことができる可能性が見えてくるといいですね。
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。