2023年9月7日、SDGs・ESG領域における企業の社会実装アクションを紹介するウェビナーを実施しました。すでに社会課題に取り組んでいる専門家が登壇するということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
ウェビナーでは、持続可能な地域や社会をつくるためにさまざまな活動を行っている、Yahoo! JAPAN SDGs編集長の長谷川琢也氏と、社会課題解決のプロジェクトを数多く支援し社会活動家との幅広いネットワークを構築している、クラウドファンディング運営のREADYFOR小谷なみ氏が登壇。
企業の社会課題解決の活動が注目されるなか、「仲間作り」の秘訣とその重要性について語っていただきました。
目次
「なぜ今、企業活動に仲間づくりが必要なのか」
株式会社博報堂 上地 浩之
企業を取り巻く環境の変化
まず商品過多・情報過多という脅威が挙げられます。つまり、従来の“売り場”という接点だけでは、ブランドの価値を生活者に届けることが難しくなっています。
それと同時に、生活のデジタルシフトにより、ブランドが生活者と直接的、継続的、相互作用的に繋がることができるようになりました。しかもSNSなどで、それが可視化され、ブランドを応援する人がたくさんいることが見えるようになっています。
こうした環境の変化を前提に、仲間作りという課題を考えたいと思います。
仲間作りが意義をもつ3つの視点
企業が、未知の領域に踏み出す時
ある化粧品を中心に展開するビューティブランドの、アンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)をテーマにした活動のプランニングについて紹介します。
ビューティブランドとしての社会貢献を考えた時に、様々な切り口があり得ました。その中でこのテーマを選択することは、非常に勇気が必要でした。なぜなら、ビューティブランドとしてこれまでの活動を考えた時に、画一的な美しさの発信がバイアスを強めているという側面が、どうしても存在するからです。
しかし、多様な価値観や人々が共存・共生する時代へと変化する中で、ビューティブランドとしてこのテーマに向き合う必要があると考えたのです。
そこで、プログラムを開発するにあたり、自分たちの知見だけではなく、人種とか差別といった領域で研究を進めている先駆者の皆さんを“仲間”とすることにより、効果的な情報発信を可能にしました。
さらに、実際にバイアスに悩まされている社員や有識者などの当事者に参加してもらい、意見を集めながら進めました。あわせて、教育機関へもプログラムも提供しています。こういった“仲間”との対話が、未知の領域に取り組む勇気や力を与えてくれたのです。
明確な答えのない挑戦を始める時
カーボンニュートラルの実現に向けた、企業横断のコンソーシアムの取組みでは、様々な形での対話の場を提供しました。
参加いただいた企業のご担当者からは、「対話への参加を通じて、他業界、他企業の課題・挑戦を知り、学びはもちろん、勇気をもらえた」と高く評価いただけました。
カーボンニュートラルの実現は、まだ正解が見えない非常に難しいテーマです。そういった状況において、一社で考えていても答えは出ませんし、なかなか動き出すことができません。直接的な解決策に繋がらないとしても、他企業のご担当者と意見交換し、互いに刺激を受け合うことが、次の一歩に踏み出す勇気やヒントを与えてくれるわけです。
共創でこそ社会は大きく動く
SNSを上手に活用することで、インフルエンサーや一般のユーザーを束ね、彼らにも情報発信してもらいながら拡散させているデンマークのブランドや、Webサイトに社会貢献活動のプロジェクトクトを複数並べ、ファン投票を促し、ブランドとしての投資を公開しながら一緒にブランドを作るパートナーとして生活者を巻き込んでいるイギリスの飲料ブランドなど、海外にも、仲間作りに成功している事例があります。
以上のケースから、企業はいきなり答えを示すのではなく、考えるプロセスから様々なステークホルダーを巻き込み、仲間として参加してもらうことでプロジェクトを動かしていくことがますます重要になってきていると言えるでしょう。
まとめ~ディスカッション
兎洞 本日は、サステナビリティのテーマを「仲間作り」という観点でお話が聞けて、とても有意義でした。最後にいくつか詳しくお聞きしたいと思います。まず、長谷川さんにお聞きしますが、ご自身の手を挙げる力とか、自分から動いていく力とか、人を巻き込む勇気とか、もう少し、体験を通じた喜びを教えてもらえますか?
長谷川 元々、早生まれということもあり、自分は自信がなくて劣等感の塊なんですが、チームを動かすときは「レッドを探せ」ということを言い聞かせているんです。「レッド」というのは戦隊もののレッドで、敵を倒すときにいつも真ん中にいてポーズをとっている存在ですが、自分だけでは出来ないことは、まず「レッド」な人物を見つけて、その人物がやりたいことベースでアイデアを出していき、仲間を探すようにしています。ですから僕自身はいつも2番手、3番手ぐらいの役割なんです。
兎洞 もう一点、長谷川さんにお聞きしますが、会社員としてのご自身はどれくらい意識しますか?おそらく社内でもポジティブに言われるときもあれば、ネガティブにとらえられる時もあるでしょ?
長谷川 たしかに、そのとおりなんですが、常に自分自身は、ヤフーという企業の社員であることを絶対に忘れないように肝に銘じています。自分がやりたいことのために会社を欺くとかはまったく考えないし、企業のためにいいことかどうかを考えて、それに共感してくれそうな人を探すようにしています。それに、味方を作りやすいタイミングとかテーマって必ずあると思っていて、企業の活動との接点は常に意識しています。
兎洞 ありがとうございます。次に、小谷さんにお伺いしますが、お話の中で、企業が主体となってクラウドファンディングに手を挙げるケースが増えているとおっしゃっていましたが、一方で、大企業の人ほど逡巡する気持ちが大きいのではないですか?
小谷 2点あると思うんですが、まずは、先ほど長谷川さんがおっしゃっていた「レッド」がいるパターンです。企業の中で新規事業などに取り組まれている方は、まさに「レッド」な存在で、大きく一歩を踏み出すための予算づくりにクラウドファンディングを活用するケースがあると思います。もうひとつのパターンは、企業として、世の中の人と一緒にやっていきたいけど予算がつかないと悩んでいる時は、クラウドファンディングのストーリーで訴えていけば、批判をうけることなく実現に近づけるし、目的や意義に関して解像度が高い人たちと一緒にやるということは方法としていいと思います。
兎洞 なるほど。「ダブルインパクト」を実現するアプローチとして、クラウドファンディングがもっと広がっていくといいですね。もう一つ、小谷さんにお聞きしますが、実行者と支援者のエンゲージメントを強めるためにREADYFORが実際しているサポートやアドバイスがあったら教えていただけますか?
小谷 一つのシステムとして、どういう思いでお金を出してくださったかがわかるように「応援コメント」を書き込んでいただくようにしています。そうすれば、提供される側にも、その事業に取り組む熱量が上がるし、中長期的にコミットメントしていくモチベーションが生まれると思います。
兎洞 ありがとうございます。もう一点、小谷さんのお話の中に「プロセスエコノミー」というワードが出てきていましたが、クラウドファンディングにチャレンジする皆さんが成長されたり、視座が広がったりというケースが多いと推察します。実際、そんな場面を見ることはありますか?
小谷 実際、私が関わらせていただいているプロジェクトでも、5年にわたるケースもあって、私自身も一緒に成長していくということは実感としてありますね。いざスタートとなると、その時点から、いろんな情報や人と接点が生まれるので、クラウドファンディングはただお金が集まればいいという活動ではないことは確かですね。
兎洞 まさに、そのプロセスにこそ財産があるんですよね。プロの方とつながるというお話に関して、上地さんにお聞きしますが、企業の方はやはり、未知の領域に飛び込むとなると、相当、怖いと思いますが、その時に、どうやって、その背中を押すのでしょう?
上地 まず、はじめからうまくいかないケースもあることを大前提とすることが大事かなと思います。人間同士が関わるわけですから合う合わないということは当然あるし、いきなり、この領域だからこの人!と決めつけるのではなく、自分たちのやりたいことや思いをあらためて整理しながら、一緒にやってくれそうな人を探すということが重要だと思います。
兎洞 なるほど。まず自分たちがやりたいことや思いはこれだから、そこに共感してくれて、その領域に詳しい協力者=仲間を探そうという順番が大事なポイントになるわけですね。登壇者の皆さん、本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
博報堂では、社会に対して活動を起こそうとする企業と、想いを持った活動家とその先の応援者を繋ぎ、各領域で社会を変える活動を加速させる(Boost)ための、SDGsソリューションプログラム「Social Booster」 を提供しています。⇒サービス紹介ページはこちら
プロフィール
長谷川 琢也 氏
ヤフー株式会社
Yahoo! JAPAN SDGs 編集長
1977年3月11日生まれ。自分の誕生日に東日本大震災が起こり、思うところあってヤフー石巻復興ベースを立ち上げ、石巻に移り住む。被災地の農作物や海産物、伝統工芸品などをネットで販売する「復興デパートメント(現エールマーケット )」や、漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変えるため、地域や職種を超えた漁業集団フィッシャーマン・ジャパンの立ち上げに従事。現在は持続可能な地域や社会をつくるため、ヤフーでは地域の脱炭素事業を後押しする「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」や、SDGsに特化したWebメディア「Yahoo! JAPAN SDGs」編集長を担当。
小谷 なみ 氏
READYFOR株式会社
ファンドレイジングキュレーター部
部長エキスパートキュレーター
准認定ファンドレイザー
キュレーターとしてREADYFORに参画。資金調達に伴走したプロジェクトの累積調達額約21億。現在はファンドレイジング事業・サービス開発を担うプレイングマネージャー。「こどもギフトプログラム」「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金(国内CF最高額)」などのソーシャルプロジェクトから「日比谷音楽祭」「Jリーグクラブ」など地域・カルチャー・スポーツ領域までジャンル問わず大型資金調達のプロジェクトを多く手がける。
兎洞 武揚
株式会社博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局
チーフイノベーションプラニングディレクター
博報堂SDGsプロジェクト 共同リーダー
マーケティング、ブランディングを経て、企業の組織変革、インナーブランディングおよび企業と社会との関わりにおける、ソーシャルイノベーションプロジェクトのプロデュースが専門領域。1992年博報堂入社マーケティング業務に携わる。2002年博報堂ブランドデザインにて、コーポレートブランディング業務に従事。組織のビジョンづくりとビジョンに基づくインターナルな意識・行動変革をサポートするため、ファシリテーターとしてコンサルティング業務を行う。2010年一企業の組織変革に留まらず、マルチステークホルダーでのダイアログによるソーシャルイシューの解決の実践へと業務領域を拡大。現在、全社横断の博報堂SDGsプロジェクトのリーダー、企業経営に係るパーパス、ESG領域のコンサルティングを行う。
上地 浩之
株式会社博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局
コミュニティプロデューサー
イノベーションプラニングディレクター
エグゼクティブマネージャー
2005年、博報堂入社。ストラテジックプラナーとして、ブランド戦略立案からコミュニケーションプランニングまで、マーケティングにおける多様な領域の戦略立案担当。その後ソーシャル領域を専門にSNSを活用した次世代型CRMや、社会課題を中心においたムーブメント創出などを企画実施。2013年、株式会社VoiceVisionを設立。共創による価値創造のパートナーとして様々なコミュニティ・プロジェクトをプロデュース。2020年より博報堂Brand Innovation Design局所属。既存の領域・組織構造に捕われない共創活動の設計とそのファシリテーションを通じて新領域開拓、組織改革、VISION起点のブランディングにより多様な企業のイノベーションを推進する。
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
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