商品やサービスの認知から検討・購入、そして購入後のアフターフォローや顧客との関係性の構築・維持まで全てをサポートするフルファネルマーケティングへのニーズが高まっています。
とくにスタッフコマースの取り組みでは、来店前のネットでの情報収集から来店中、来店後までオンラインで顧客との接点を維持・強化できるフルファネルマーケティングの体制を整えることが成功のポイントです。
人気アパレルブランドを展開する株式会社メルローズでは、スタッフコマースツール「ザッピング」を導入し、フルファネルを視野に活用を進めています。今回の記事ではフルファネルマーケティング、スタッフコマース、そして同社の取り組みについて紹介します。
目次
フルファネルマーケティングへのニーズの高まり
インターネットやSNSの利用が広がり、商品・サービスを提供する企業とそれらを購入する生活者が常時「つながる」ことができるようになりました。企業が顧客との接点を常に持てるようになった今、生活者の購買に関するさまざまな行動データをもとに、商品やサービスの認知・興味・検討から関係性の維持まで、一気通貫でアプローチするフルファネルマーケティングのニーズが高まっています。
商品やサービスの認知・興味・検討から関係性の維持まで一気通貫でアプローチ
商品やサービスの認知や検討といった購買プロセスの一部分だけにフォーカスした従来型のプロモーションではなく、商品やサービスに関する情報収集の段階から競合比較・検討、そして購買から購買後のアフターフォローにまで対応し、生活者のLTV(生涯顧客価値)を高めるマーケティングが求められています。博報堂DYグループでは、「“生活者データ・ドリブン”フルファネルマーケティング」への対応力を進化させ、クライアント企業のマーケティングニーズにより的確に応える取り組みに注力しています。
さまざまなフルファネルマーケティング施策の中で、今注目を集めているのがスタッフコマースです。これは、ECサイトやリアル店舗の販売スタッフが自らWebコンテンツ(スタッフコンテンツ)を制作し、そのコンテンツをオウンドメディアやSNSを通じて発信することで、集客から来店、購入へとつなげていく次世代コマース体験です。
販売スタッフが自ら情報発信して集客から来店、売上へとつなげる
スタッフコマースが注目される背景には、販売スタッフと生活者の価値観の変化があるようです。販売スタッフは来店客にただ「モノを売る」のではなく、積極的に情報発信して「自らが本当に良いと感じた商品やサービスを生活者に届けたい」という気持ちを持っています。一方で生活者も商品やサービスの購入にあたって、自分の価値観やライフスタイルに合った販売スタッフから事前に情報を教えてもらいたいと考えています。
販売スタッフの価値観変化の兆し
出典:(株)ビデオリサーチ「ACR/ex_2021年4-6月調査(東京50km圏・関西地区_男女12~69歳)」
スタッフコマースを導入することで、販売スタッフはSNSなどを通じて情報発信して顧客を獲得できるようになり、生活者はリアル店舗への来店前に商品やサービスの情報を得ることができます。売上などの成果につながったスタッフコンテンツを制作した販売スタッフにはインセンティブを支払う仕組みを取り入れることで、販売スタッフのモチベーションも高まり、店舗の売上向上や離職率低減も期待できます。
このように販売スタッフ自らが情報発信してお客様を獲得できる機会を創出し、スタッフコンテンツへの反応とインセンティブを得て、売上向上と離職率低減を実現する仕組みを包括的に提供するのがスタッフコマースです。現在、比較的若年層の販売スタッフが多いアパレルやコスメをはじめ、家具や家電、自動車、住宅といった大型商材にまで、その導入の動きが広がりつつあります。
関連記事:販売スタッフ・生活者の価値観で注目を集めるスタッフコマース(前編)
フルファネルマーケティングで実現するスタッフコマース
ただし、単純にSNSなどで情報発信できるツールを販売スタッフが活用できるようにするだけでは、スタッフコマースの導入効果は一部に限定されてしまいます。大切なのはフルファネルでスタッフコマースを活用することです。
具体的には、ECサイトやリアル店舗への来店前(プレストア)・来店中(インストア)・来店後(アフターストア)のいずれの段階においても、スタッフコンテンツを起点としてスタッフコマースを活用して顧客接点を強化する取り組みの実践です。
スタッフコマース活用|来店前(プレストア)
まず来店前(プレストア)には、販売スタッフが制作したWebコンテンツをSNSなどの外部メディアとECサイトやオウンドメディアなど自社メディアで発信して顧客との接点を作ります。SNS広告などにスタッフコンテンツを活用すればオリジナリティ溢れるコンテンツでアプローチでき、ECサイトやオウンドメディアなどへの流入を見込むことができるほか、新たなユーザー獲得につなげることも可能です。
スタッフコマース活用|来店中(インストア)
来店中(インストア)には、リアルな接客の前段階として店頭でのデジタルサイネージやチャットボットなどにスタッフコンテンツを活用して情報を届け、オンラインで一次接客することでリアル店舗の販売スタッフから「声がけ」されることへのハードルを下げることができます。
スタッフコマース活用|来店後(アフターストア)
そして、来店後(アフターストア)には、スタッフコンテンツを起点としたメッセージ配信、リーフレットブックなど生活者の手元に残るコンテンツの作成などで中長期的に顧客接点を維持し、購買や再購入を後押しするコミュニケーションを実現します。このように、フルファネルマーケティングの観点からスタッフコマースを実現することが求められているのです。
関連記事:フルファネルマーケティングで実現するスタッフコマース(後編)
実際にザッピングを活用している企業の事例を紹介
そんなフルファネルスタッフコマースを実現するツールが「ザッピング」です。スタッフコンテンツとして集客や売上の効果が高いとされる縦型ショート動画を専用アプリからECサイトやオウンドメディアに簡単に投稿できます。動画上にリンクを設置できる独自技術によって、導入企業の平均値では1投稿あたりの経由売上が静止画の3.5倍、平均滞在時間が20%増、成約率30%増という成果を上げています。
ザッピングの特徴
このように、リアル店舗と同じような「連続した接客体験」を提供できるのが魅力で、博報堂では開発元のファナティック株式会社、インターネット広告やSNS運用コンサルティグなどを手がける博報堂DYグループの株式会社アイレップと協業し、ザッピングの導入だけでなく、SNS公式アカウント運用やサイト構築、スタッフ動画制作支援などを一気通貫でサポートしています。
それでは、実際にザッピングを活用している株式会社メルローズの事例をご紹介します。
ザッピングの導入・活用で店舗スタッフの売上もモチベーションも向上
~株式会社メルローズ~
株式会社メルローズ(以下、同社)は、マルティニーク、ティアラ、リエス、ソフィット、ピンクハウスなど複数のファッションブランドを展開しています。「ここ数年はコロナ禍で出掛ける機会や出社の機会が減り、外出着を買うお客様も減少しました。アパレル業界全体が沈みがちでしたが、2022年の秋冬から徐々に復活し、3年ぶりにコートを買いたい、ブーツを買いたいというお客様の声も聞かれます」と、同社EC担当マネージャーの明石 あさみ氏は現状を語ります。
そんな中、店舗を訪れるお客様にも変化があるようです。「以前は電話で『雑誌に載っていたこの商品はありますか?』という問い合わせがありましたが、今ではほとんど聞かなくなりました。代わりに『Instagramのストーリーズで販売スタッフが着ていたこの商品はどれですか』というような問い合わせが多くなり、事前にオンラインで商品を調べてから来店するお客様が増えたと感じます」と、同社EC担当の高橋 南奈氏は説明します。
こうしたお客様の変化を受け、同社では販売スタッフがSNSを使って商品をアピールするようになりましたが、当初はSNSで積極的に情報発信して売上を伸ばしても、それが個人の成果として正しく評価できる仕組みが整っていませんでした。
株式会社メルローズ EC担当マネージャー 明石 あさみ氏
そこで、静止画や動画の投稿がしやすく、運用コストも抑えられ、しかも販売スタッフの成果を正しく評価できるといった視点からスタッフコマースツールとしてザッピングの導入を決定しました。
ザッピング導入でスタッフのモチベーションが向上、投稿数も増加
同社ではザッピングを実際にどのように活用しているのでしょうか。明石氏は、「Instagramと併用している販売スタッフが多い」と説明します。「私が担当しているティアラとリエスというブランドではもともと、個人のInstagramを頑張っている販売スタッフが多くいました。
そこで、自分の投稿にザッピングのURLを一緒に載せて、『こちらもご覧ください』と紹介するようにしました。若い販売スタッフはInstagramのストーリーズを活用してきた人も多いので、動画のアップロードは問題なくできているようです」(明石氏)。
一方、高橋氏は、自らもザッピングを活用して社内トップクラスの売上実績をあげています。「私は新作の予約販売や発売のタイミングに合わせて、タイムリーに投稿することを心がけました。その時期に売りたいと思う商品をタイミングを逃さずにザッピングでアップすることで、投稿をより多くのお客様に視聴していただけたのだと思います」(高橋氏)。
また、販売スタッフごとに売上につながる工夫を動画に取り入れているようです。例えば、自分の“笑顔”がしっかり映るように動画を撮影し、「顔を覚えてもらって来店につなげたい」という販売スタッフもいたそうです。
株式会社メルローズ EC担当 高橋 南奈氏
このように販売スタッフが自ら工夫した投稿が売上につながり、さらには自分のインセンティブにも結びつくことで、ザッピングを活用しようという販売スタッフのモチベーションは高まっていったようです。
同社では2022年9月からインセンティブ制度を始めましたが、明石氏は、「その前後で投稿数が倍増しています」と説明します。「販売スタッフのうち3~4割が投稿している状況ですが、これまでは投稿に消極的だった販売スタッフも動画をアップするようになり、それがさらに全体の売上を押し上げて、インセンティブとして販売スタッフにも還元され、全体に良い循環ができつつあります」(明石氏)とザッピング導入の効果を示します。
さらに、明石氏は「ザッピングの活用が進むにつれ、それに比例するように正規価格で販売し、利益率が高いプロパー商品の売上も伸びました。これもザッピングの導入効果のひとつと捉えています」と説明します。
今後はフルファネルマーケティングを実現する取り組みを
同社では今後、ザッピングをさらに活用したフルファネルマーケティングにより注力していきたいと考えており、来店前の広告、来店時の接客、来店後のアフターフォローをトータルで実施することで、顧客の満足度を高め、LTVを向上させていく見通しです。
「現在はまだザッピングの本格的な活用が始まったばかりでフルファネルでのマーケティングに取り組むのはこれからです。まずは、すでに導入・活用しているMA(マーケティングオートメーション)ツールとザッピングとの連携を考えています。MAでメルマガやキャンペーン情報を配信し、そこからザッピングの動画に誘導するなど新しい展開もできると思うので、個人的には新しいことができるとワクワクしています」(明石氏)。
また、優秀な販売スタッフの表彰制度にもザッピングの実績を加味していこうと考えています。
「現在の表彰制度の評価軸は売上が中心です。そこで、売上には直接結びついてはいないものの、ザッピングに積極的に投稿した販売スタッフや、売上にはつながらなかったがザッピングに素敵なコーディネートを投稿した販売スタッフなどを表彰してはどうかと考えています。スタッフのモチベーションアップにつながる活用法もまだまだあると思います」(明石氏)。
その他にも、引退した販売スタッフが自宅からコーディネートを提案するといったザッピングの活用法も模索しているという同社。新しいコマース体験の可能性は広がっていくようです。
岡本 和久(おかもと かずひさ)
株式会社博報堂 DXソリューションデザイン局
イノベーションプランニングディレクター
システムインテグレーター、メディアサービス企業を経て、博報堂入社。システムインテグレーターでは資産運用会社向けのSaaSサービスの開発に従事。メディアサービス企業では分譲マンションデベロッパー向けにマーケティング、メディアプランニング、商品開発にて事業伸長に貢献。博報堂では、OMO、B2Bマーケティング、MaaSのプランニングチームを歴任し、事業開発、UX、DX、AI等のテーマで得意先業務をアップデート。
榮多 一郎(えいた いちろう)
株式会社アイレップ
ソリューションビジネスUnit ソリューションコンサルティングDivision
広告制作会社でのクリエイティブ領域における経験を活かし、株式会社アイレップに入社。統合ソリューションを主軸に、プロモーション提案・設計、メディア構築・利活用など幅広い領域を支援。
野田 大介(のだ だいすけ)
株式会社ファナティック
代表取締役
ファッション誌の編集、スニーカーブランドの生産管理、アパレルブランドでの通販責任者を経て、2016年に株式会社ファナティック設立。大手アパレル通販のリニューアル支援や売上改善の傍ら、2017年にLINE公式アカウントの自動配信ツール「ワズアップ!」を提供開始。2020年には日本で6人だけのLINEの認定講師 LINE Frontlinerに任命 (2022年現在9名) 。2021年には動画接客ツール「ザッピング」の提供を開始。
※プロフィール・肩書は、掲載当時のものです