ITを活用して営業活動を効率化し生産性向上を図る「セールステック」は、近年、企業の営業部門にとって欠かせないテクノロジーの一つとなりました。「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパン 事業開発本部 市場開発部長の中澤亮介氏は、そのセールステックの意義は「営業の科学」にあると語ります。
セールステックツール「Marsys Sales Tech」の導入によって、営業・マーケティング・カスタマーサポートの各領域が連携すると、企業の営業活動にどのような変革がもたらされるのでしょうか。前編に引き続き、博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局(MSC局)土屋嘉晃、高橋洸介との対談の様子をご紹介します。
目次
「Marsys Sales Tech」の導入・活用で人事評価も組み込んだ営業改革が可能に
土屋 前編では、BtoC企業の営業領域を取り巻く環境の変化、とくに生活者側、顧客側が非対面での営業を求めているという変化、その変化に対応するための課題などについてお話を伺いました。後編では、ワークスモバイルジャパンと博報堂との協業から生まれた「Marsys Sales Tech」を活用することで、BtoC企業がどう営業DXを加速させられるのかを中心に話し合いたいと思います。
中澤 「Marsys Sales Tech」も含めてセールステックツールの導入の意義をひと言で示すと、前編でもお話をした「営業の科学」の実践にあると思います。見えなかったデータを見えるようにして、営業行動に示唆を与え、営業プロセスを改善するのがセールステックだと考えています。
■営業活動上の課題と、セールステックに求められている役割
高橋 見えなかったデータを見える化し、営業の「To Be」とでもいうようなデータドリブンな営業、あるべき姿を実現するのがセールステック導入の目的ですね。
土屋 ワークスモバイルジャパンのお客様で、LINE WORKS(LINE)とその裏側のデータ連携によって売上が伸びたといった事例はありますか。
中澤 ファッション事業を手がけるクライアント企業の事例をご紹介します。同社では、ショップ販売員がLINEアカウントでお客様とつながり、店舗やECサイトに送客する非対面接客を実施していました。ただし、販売員のアクションやその成果はExcelで管理されていて、一定の効果は確認できていましたが、全データの可視化や効果測定がなされていたわけではありませんでした。つまり、裏側の仕組みには課題があったのです。
そこで、LINE WORKSを使って「友だち」データを収集。自社の売上データと一元管理する仕組みをつくり、販売員の行動とお客様の来店や購買行動をシームレスに紐付けられるようにしたのです。データが可視化された結果、営業行動が成果とどう相関しているのかを分析できる状態になりました。
それを利用して、今度は、販売員がつながっている「友だち」の数、その「友だち」が店舗に来店した数、売上金額などについて一定の条件を満たす成果をあげたらその販売員に最大1,000万円の報酬を支払います、といった制度を設けたのです。結果、同社は自社EC売上で300%アップを達成しました。
「Marsys Sales Tech」を展開することによって、顧客企業がこうした取り組みをより進めやすくなるようなUXを提供できるのです。
ワークスモバイルジャパン株式会社 事業開発本部 市場開発部 中澤亮介氏
土屋 なるほど、販売員の営業行動の支援にとどまらず、販売員の評価にもつながるのですね。それがあるからこそ、販売員のモチベーションも高まり、会社全体としての営業効果が期待できるようになる、非常に興味深い事例ですね。「Marsys Sales Tech」は、営業支援を通じて、組織の人事やマネジメントにもつながっていく可能性を秘めているのかもしれないと感じました。
■販売員の人事評価に、LINE接客活動に関するKPIと高額報酬制度を組み込んだクライアント企業の事例
「Marsys Sales Tech」の設計と運用で顧客に適切なCXとUXを提供する
中澤 私からも博報堂の皆さんに聞いてみたいことがあります。マーケティング支援での実績が豊富ですが、マーケティングオートメーション(MA)を導入している企業から「お客様へのメッセージは、マーケティング部門から直接に送らないでくれ」といった声を聞くことはありませんか?
高橋 そういったご要望はよく聞かれますね。
中澤 なるほど。営業部門としては、営業担当者の許可なくマーケティング部門がお客様にメッセージを送信してしまうことに懸念があるのでしょう。とはいえ、マーケティング部門が「自分たちからは送らないから、こういうメッセージを営業担当者からお客様に送信してほしい」と伝えても、ほぼスルーされてしまう……。
どうしてこういうことが起きるのか、それは、営業部門にメリットが見えないからだと聞きます。例えば、MAがデータをもとに示したことを営業がやってみたら、自分で電話したりメールするよりもオペレーションが少ないステップで済むから楽だったり、実際にお客様から喜ばれて営業成果が出た、といったメリットを営業担当者が体験できることが必要です。
土屋 メリットを実感できるような設計にすること、メリットを実感できる運用をサポートすることが大切ですね。先日、あるブランドのショップで買い物をしたところ、そのブランドから3通のメールが届きました。1通目はグローバル全体で顧客に出しているメール。2通目は日本法人が購入した顧客に送るメール、3通目はショップの担当者からのメールでした。どれも同じような内容のメールで、なぜ3通も届いてしまうのかを考えたところ、やはりデータ連携ができていない、営業とマーケティングの役割分担ができていないことが理由だと思えました。
営業支援やMAのツールは「導入して終わり」ではありません。それは「Marsys Sales Tech」でも同じことで、導入後に営業担当者が活用すればメリットがあると実感できるような設計と運用にしないと意味がありません。データ連携や営業とマーケティングの業務分担など、運用の部分まで含めて適切に設計することで初めて、BtoC企業が顧客に対し適切なUX、CXを提供できるようになるのです。その設計の部分は博報堂が最も価値を発揮できるところです。
「お客様にどういうCXを提供するか」を考え、そこから逆算してシステムをつくり、システムの運用を設計する、「Marsys Sales Tech」の導入・活用についても、運用の設計の部分がとても重要になると考えています。
高橋 システムを効率的に構築・導入するだけではなく、生活者目線・マーケティング目線を持ち、システム面と運用面の両方からBtoC企業をサポートできることが我々の強みですよね。
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 カスタマーサクセス部 高橋洸介
中澤 確かに「Marsys Sales Tech」がきちんと使われるような運用を設計できないと、営業担当者の行動も可視化されず、「売れる営業の行動パターンを標準化して横展開する」といったこともできません。運用まで含めてサポートできるのは大きな意味を持ちますね。
「Marsys Sales Tech」の導入で「ブランドエクスペリエンス」を届ける
土屋 設計や運用までを含めて支援することが目指すのは、BtoC企業の営業DXの支援にほかなりません。「Marsys Sales Tech」によって実現していきたい営業の姿だと思います。
中澤 セールステックや営業DXの分野でロールモデルとしてよく取り上げられる企業の一つに、センシングデバイスや解析機器の世界的なメーカーがあります。そこは、営業担当者が顧客管理のデータベースに入力するデータの項目、入力の仕方などを徹底的に統一化し、標準化しています。その徹底した標準化によって分析可能なデータを蓄積し、さらにその分析結果を営業行動に反映させることでマーケットのニーズにいち早く応えているのです。
セールステックのツールを使わなくても、このメーカーのように営業担当者が決められたプロセスでデータを入力することを徹底できれば、データを営業活動に活用できるでしょうが、多くの企業ではここまで徹底して標準化することは困難です。やはり、ツールの活用が不可欠でしょう。ツールを使うことで営業担当者がストレスを感じることなくデータを入力でき、しかも活用できるようにすることが大切で、「Marsys Sales Tech」がその難しさを助けるツールになればと思います。
土屋 博報堂では、企業の営業活動を支援し、組織体系や営業担当者の評価なども含めてデジタル時代に合う変革、営業DXを促す取り組みを進めています。同時に生活者発想という視点で、BtoC企業のもたらすブランドエクスペリエンスを変革していきたいという思いがあります。
「Marsys Sales Tech」を導入することで、BtoC企業の営業活動が「生活者にとって最善のブランドエクスペリエンスを提供する」ものになる、という姿を目指したいと考えています。
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 土屋嘉晃
高橋 BtoC企業と顧客との関係を考えると、顧客に対して営業担当者が電話したり、LINEでやりとりしたり、マーケティング部門からメールを配信したりと、さまざまなチャネルで接点を持っています。それらのチャネルの一つひとつで行われるやりとりが、お客様にとってCXであり、ひいてはブランドエクスペリエンスにつながります。あるひとりの顧客に対して、1つの企業、1つのブランドとして、すべてのチャネルが連動して最適な体験を届けることができるようになるのが理想ですね。
営業担当者1,000人規模の営業組織になると、個人のスキルまかせではなく、ツールを活用してルール化・標準化して生産性を高めていかないと、営業効果がスケールアップしていきません。営業組織の全体最適という観点で、ツールを使った標準化や営業プロセスの改善を進めていくことが重要です。
土屋 営業行動を「効果の高低」と「再現性の有無」の4象限で分けるとすると、「効果が高く、再現性がある」のファクターを可視化・分析して、組織全体にどう展開できるかというところが営業の標準化のポイントになります。そのための制度設計、組織設計、もちろんツール設計も含めて、コンサルティング的なご支援も我々が行えればと思います。
中澤 「営業の科学」を高いレベルで実現するには、やはりデータ連携が重要ですよね。ある企業ではLINE WORKS(LINE)を活用してキャンペーンチラシの効果測定をしています。営業担当者のLINEから顧客企業の担当者にチラシ画像を送り、そこから流入があったかどうかを計測するというものです。
ただ、その計測のプロセスには一部デジタル化されていないところがあり、チラシ画像を送る営業行動と流入の紐付けが難しく、複数のデータを手作業で照合して効果を測定しています。これがもし、データが完全に紐付き、送った画像のパフォーマンスをリアルタイムで検知できるようになると、画像を送る時間や営業担当者などの違いとパフォーマンスの関係を分析できるようになります。そうなれば、営業戦略も変わるかもしれません。
デジタルのタッチポイントを構築し、営業プロセスと効果がデータで明らかになれば、これまで改善できなかった営業プロセスを改善できる可能性があります。「Marsys Sales Tech」でそういう方向を目指せればと思います。
■BtoCの営業領域で営業DX推進を支援
<プロフィール>
写真左:中澤 亮介(なかざわ りょうすけ)
ワークスモバイルジャパン株式会社 事業開発本部 市場開発部長
2007年から北米外資系企業に約8.5年間従事後、2015年末にワークスモバイルジャパン入社、ビジネスチャット市場へのMarket-inを戦略軸として市場浸透に邁進。現職では、「LINE WORKS外部接続サービス」による「Sales Tech市場へのGo To Market」を主軸に新しい領域への市場浸透をミッションとして活動中。
写真中央:高橋 洸介(たかはし こうすけ)
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 カスタマーサクセス部
WEB制作会社、総合ITベンダーを経て、2021年博報堂入社。WEB/アプリ制作ディレクションやメディアプランニング、SFAやMAの導入から実運用、機械学習による予測モデル構築/活用に至るまで、デジタルマーケティング領域における企画立案から施策実行までを幅広く支援。BtoBマーケティングやCRM領域にも従事。Salesforce 認定 Marketing Cloud コンサルタント資格保有。
写真右:土屋 嘉晃(つちや よしあき)
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 ビジネスプラニングディレクター
インターネットサービス・EC事業会社、総合系コンサルティング会社等を経て、2020年博報堂入社。海外自動車メーカーへのSFDC CRM導入およびSFMC導入・運用支援、国内大手住宅機器メーカーむけ顧客接点デジタル化支援、スポーツ振興独立行政法人むけデジタルマーケティングツール導入PoCおよびUX/UI開発の支援、国内大手化学メーカーむけオンラインイイベントBtoBマーケティング導入支援、Salesforce+LINE/LINEWORKSをベースにしたSalesTech自社プロダクト開発・リリース等に従事。