現在、多くのBtoC企業が「顧客との接点(タッチポイント)」の構築・維持に悩んでいます。これまで対面での営業活動が当たり前だった状況は一変し、デジタルツールを活用した非対面営業へのシフトが進んでいます。こうしたなか、「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパンと博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局(MSC局)は、企業の営業DXを支援するツール「Marsys Sales Tech」を開発しました。
本記事では、ワークスモバイルジャパン 事業開発本部 市場開発部長の中澤亮介氏、博報堂 MSC局の土屋嘉晃、高橋洸介の対談を通じ、BtoC企業に営業を取り巻く環境の変化、「Marsys Sales Tech」の開発背景、両社が目指す営業DXの姿などについて前後編に分けてご紹介します。
目次
7割以上の生活者は非対面営業に全く抵抗がない
土屋 博報堂のクライアント企業の中でも、不動産や自動車、ハイブランドのアパレルなど高額な商材やサービスを扱うBtoC企業は、顧客とのタッチポイントをどう構築し、維持するかに悩んでいます。
例えば、不動産を扱う企業であれば、これまでは営業担当者が個人顧客を直接訪問し、対面で営業するのが当たり前でした。それが、デジタルツールの浸透やコロナ禍もあり非対面での営業が求められるようになってきました。こうした変化にうまく追随できないケースもあります。
中澤 たしかに、扱っている商材やサービスが高額だと「非対面でいいのか」と考えてしまう営業担当者は、まだまだ多いと思います。そんな迷いがあるから、非対面へのシフトにうまくついていけないのかもしれませんね。しかし、理解しておきたいのは「既に顧客は非対面に全く抵抗がない」という事実です。
ワークスモバイルジャパンが最近(2022年4月)実施したサーベイでは、「契約・決済に向けた折衝・商談」で56%が、「簡易的な打ち合わせや購入後の連絡」では70%以上が対面にこだわらないとしています。私たちが思っているよりもずっと生活者側のマインドは進んでいます。まずは、この事実を受け止めておくべきだと考えます。
■BtoC 25業種の利用意向をもつ生活者を対象に実施したアンケートの結果
土屋 7割以上ですか……、そこまで進んでいるとは衝撃的ですね。
中澤 そうなんです。私も古いタイプの営業なので、つい「契約に関連するクリティカルなコミュニケーションは対面でないとまずいのでは?」と思ってしまいますが、それですら半数以上の方が非対面でもいいとしています。サーベイは25業種に限定したものですが、「BtoC企業の顧客は、営業担当者とのタッチポイント構築手段として非対面に抵抗がない」といえます。
ワークスモバイルジャパン株式会社 事業開発本部 市場開発部 中澤亮介氏
土屋 個人の顧客がインターネットを通じて能動的に商材やサービスに関する情報を収集し、契約や購入前に十分にリサーチするというスタイルがコロナ禍でさらに加速したと考えられますね。
高橋 たしかに、それはあると思います。自動車やバイクを買う場合、以前ならディーラーで試乗して検討し、最終的に判子を押すという購買行動でした。今は、店舗に行く前にどれを買うかを既に決めていて、判子を押すためだけにお店に行くようなケースも増えています。
だからこそディーラーは、顧客が情報収集や商品の比較検討をしている「来店前」にいかにタッチポイントを作れるか、適切な情報を顧客にいかに提供できるかが勝負になるわけですね。
中澤 おっしゃる通りかと。生活者マインドが変わり、非対面営業を求めていることは明らかにもかかわらず、企業がそのニーズに気づいていない、追いつけていないのが実態だと感じます。だから、適切な情報を適切なタイミングで、「適切な方法で」顧客に提供することが、ますます難しくなっているのでしょう。
求められるのはデジタルツールを活用した「営業の科学」の実践
土屋 なるほど。博報堂グループが得意とするマーケティングの領域では、既にMA(マーケティングオートメーション)などのデジタルツールを活用して、「適切な人に」「適切な情報を」「適切なタイミング」「適切な方法」で提供する取り組みが進んでいます。それと同じような取り組みが営業の領域でも求められているのですね。
中澤 はい。営業担当者と顧客との間にデジタルを導入して「営業の科学」を実践することの重要性が高まっていると感じています。ワークスモバイルジャパンが博報堂との協業に踏み切った理由も、ひと言で示すと「両社で営業の科学を実践していきたかったから」です。
マーケティングの領域では、ご存じのようにデジタル化が実現しています。それに対して営業の領域、とりわけ営業担当者が顧客とのタッチポイントをどう構築し、維持するか、その方法はデジタル化されず、経験則やマンパワーによるところがまだまだ多いようです。つまり、「科学的」になっていないということ。その理由は「ツールがなかったから」だと考えています。
土屋 単純に営業担当者と顧客がタッチポイントを持つだけの、いわばフロント部分のツールであればLINEやZoomなどがあります。営業の科学に求められるのは、フロント部分の裏側で動くツールですね。
中澤 LINEやZoomなど顧客とのタッチポイント構築に有効なツールとは別に、フロント側のツールと基幹システムを連携させるようなフロントの裏側で動くシステムです。フロントのデジタルツールで収集した顧客に関するデータを基幹システムにつないで一元管理して分析し、その結果をもとにした営業施策の効果の測定までできるような、そんなツールが整っていない。だから営業を科学的に実践できないのです。
高橋 顧客企業の営業領域のご支援は、博報堂としては新しい領域へのチャレンジでもあります。ワークスモバイルジャパンとの協業でそれに取り組むことの意義はとても大きいと感じています。
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 カスタマーサクセス部 高橋洸介
タッチポイント構築の課題は「データ連携」と「リテラシー」
土屋 BtoC企業が顧客とのタッチポイントを構築・維持するフロント側のツールについて、多くの企業からご相談いただく共通のお悩みの一つに「営業担当者が個人のLINEアカウントでお客様とつながってしまっている」というものがあります。
中澤 営業担当者のLINEアカウントでやりとりされるお客様の情報は、そのままでは基幹システムやCDPとは一元化されず、データが分断されてしまいますね。両方のデータを営業担当者が個人の頭の中で整理して管理して、いわば「脳内CRM」のような形でデータ連携させている場合もありますが、そうしたことができるスーパー営業担当者の数は多くはないでしょう。
土屋 一般の生活者のほとんどが日常的に使っているLINEは、BtoC領域のタッチポイントとして有効に機能します。ですから我々も「営業担当者にLINEを使わせない」という方向ではなく、「LINEやLINE WORKSというツールを起点にした営業DX」という方向で支援したいと考えています。
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 土屋嘉晃
中澤 もう一つ、営業DXの支援で見落としてはいけないことがあります。先ほど「顧客が非対面営業を許容するマインドに変わった」という話をしましたが、マインドの変化に合わせて顧客のデジタルリテラシーが上がっているかといえば、そうではないのです。つまり、非対面を望んでいても、ちょっとでも難しいデジタルツールでアプローチされると顧客はそれを使いこなせないので嫌がるということです。
例えば、保険会社がお客様と保険契約をするという場面で、契約書類をパスワード付きのZIPファイルで送信すると、顧客はパスワードを入力するのが面倒という理由だけでファイルを開かずに「離脱」してしまうことも珍しくないのです。
この点は、BtoC企業がタッチポイントを構築するうえで切り離せない、クリティカルなポイントです。こうした状況を考えると、BtoCの領域においては、営業担当者と顧客のタッチポイント構築には使い慣れていて、馴染みがあるツールでないとなりません。必然的にLINE WORKS(LINE)になると思います。
■生活者の利用意向やデジタルリテラシーはタッチポイント構築の重要なポイントに
「ネクスト・ベスト・アクション」を知って行動できる仕組みづくりが重要
土屋 ワークスモバイルジャパンが提供しているLINE WORKSは、一般の生活者にとって非常に馴染みのあるLINEの延長で使うことができます。BtoC企業にとっては導入・活用しやすく、ビジネスチャットのツールとして大きな利点があります。ただし、タッチポイントを構築できた顧客との商談情報などのデータを基幹システムと連携させられないとデータが分断されてしまうこともある。そこに悩むBtoC企業も多いと思います。
中澤 LINE WORKS(LINE)を介してつながった「友だち」のデータは、電話番号やメールアドレスと同じぐらい重要なアタックリストにつながるデータです。そのデータがツール間で分断されることなくつながれば、営業担当者に次のベスト・アクションを示唆できるようになるでしょう。「営業担当者がわざわざ見に行かなくても、リアクティブなかたちで一貫したデータにアクセスできるようになる」ということが重要です。「LINE WORKSを見ていればネクスト・ベスト・アクションの指示が受けられる」というようになれば理想的ですね。
大切なことは、「両ツールの名寄せをすれば終わり」ではないということです。名寄せしてデータをつなげたあと、営業担当者が示唆を得て営業活動につなげる、あるいはその営業の行動をマーケティングに活用する、といった行動の実現こそが、タッチポイントをデジタル化してデータを取得する意義です。こうした取り組みを実現できるのが、博報堂との協業から生まれたツール「Marsys Sales Tech」だと考えています。
土屋 はい。後編では「Marsys Sales Tech」を活用することで、どう営業DXを加速させることができるのか、そのあたりを話し合えればと思います。
後編「営業のあるべき姿を実現する「Marsys Sales Tech」はコチラから
<プロフィール>
写真左:中澤 亮介(なかざわ りょうすけ)
ワークスモバイルジャパン株式会社 事業開発本部 市場開発部長
2007年から北米外資系企業に約8.5年間従事後、2015年末にワークスモバイルジャパン入社、ビジネスチャット市場へのMarket-inを戦略軸として市場浸透に邁進。現職では、「LINE WORKS外部接続サービス」による「Sales Tech市場へのGo To Market」を主軸に新しい領域への市場浸透をミッションとして活動中。
写真中央:高橋 洸介(たかはし こうすけ)
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 カスタマーサクセス部
WEB制作会社、総合ITベンダーを経て、2021年博報堂入社。WEB/アプリ制作ディレクションやメディアプランニング、SFAやMAの導入から実運用、機械学習による予測モデル構築/活用に至るまで、デジタルマーケティング領域における企画立案から施策実行までを幅広く支援。BtoBマーケティングやCRM領域にも従事。Salesforce 認定 Marketing Cloud コンサルタント資格保有。
写真右:土屋 嘉晃(つちや よしあき)
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 ビジネスプラニングディレクター
インターネットサービス・EC事業会社、総合系コンサルティング会社等を経て、2020年博報堂入社。海外自動車メーカーへのSFDC CRM導入およびSFMC導入・運用支援、国内大手住宅機器メーカーむけ顧客接点デジタル化支援、スポーツ振興独立行政法人むけデジタルマーケティングツール導入PoCおよびUX/UI開発の支援、国内大手化学メーカーむけオンラインイイベントBtoBマーケティング導入支援、Salesforce+LINE/LINEWORKSをベースにしたSalesTech自社プロダクト開発・リリース等に従事。