「新商品・サービスを投入したけれども、予想以上に売れなかった……」こうした事態を防ぐために必要なのが「テストマーケティング」です。新商品・サービスを世に問う際の、企業にとっての最大のリスクは「売れずに、在庫と投資費用だけがかかってしまった」という事態に陥ること。
しかし、新規顧客を獲得し、企業を存続させていくには、継続的な新商品・サービスの開発が不可欠です。テストマーケティングを実践する最大のメリットは「“売れない”リスクの低減」にあります。本記事では、テストマーケティングとは何か、どのような手法があるのか、実践の際に大切な視点などを解説します。
目次
テストマーケティングとは?
「テストマーケティング」とは、商品やサービスの販売にあたり、あらかじめ決められた地域や流通チャネルなどを用いてテスト的に行うマーケティング手法です。言い換えると、新商品を本格的に市場に流通させる前に、試験的に限られた顧客に商品を試してもらうことで、商品の課題を洗い出す作業だともいえるでしょう。
「売れる」商品をつくる
なぜ、テストマーケティングを行うのか。その最大の理由は、最終的に「売れる」商品をつくる上で、商品の機能や流通経路に改善をかけるためです。販売実績がなく、市場に流通していない新商品やサービスは、本当に売れるのか、狙っていた売上を達成できるのか不透明です。そうしたリスクを、テストマーケティングによって低減できます。
例えば、商品の初動やリピート率、販促への反応などを見極め、生産・販売計画を見直すことや、全国展開に向く商品なのかなども確認できます。
プロモーションの「前段階」で必要となる
商品開発の記事でも言及しましたが、市場に投入する最後のプロセスであるプロモーションの前段階でテストマーケティングが必要となります。この段階でテストマーケティングを行う主なメリットは、以下の3点です。
- 設定したターゲットに“刺さる”商品になっているか確認できる
- 販売計画(生産量など)を立てやすくなる
- 販促の改善ポイントを最後に洗い出すことで、本格的に市場に流通させる前に最後の改善ができる
テストマーケティングの種類
テストマーケティングには、大きく分けて2種類あります。
オンライン
オンライン上でのテストマーケティングは、オフラインに比べて低コストで実施でき、広くデータを取得しやすい点が優れています。また、WebモニターやSNSキャンペーンは、長い準備期間を必要としないため、素早く生活者の反応を確認できます。
オンライン上のテストマーケティングとしては、主に以下の3つの手法があります。
- Webモニター
- SNSキャンペーン
- 購入型クラウドファンディング
1つ目のWebモニターは、顧客に商品・サービスを使用してもらった後、Web上でアンケートに回答してもらう手法です。高齢者へのテストには適していませんが、オフラインと比較すると低コストで調査を行える点がメリットです。
2つ目のSNSキャンペーンは、TwitterやFacebookの投稿に対する反応のチェックをオンラインで実施する調査です。「いいね」の数やコメントの反応で、商品やサービスに対する顧客のイメージを確認します。
そして3つ目の購入型クラウドファンディングは変わり種で、企画段階の商品をクラウドファンディングサイト上に「プロジェクト」としてアップし、ユーザーは「支援」として商品やサービスを購入するというものです。
聞き取り調査やアンケート調査では、実際にユーザーがお金を払うことはありません。対照的にこの調査方法では、見込み客が実際にお金を払って商品を購入するので、企業にとっては必要な在庫数などを予測することができます。
オンライン上でのテストマーケティングに適する業態としては、Webサービスをはじめとした、インターネット空間でのプレゼンスが強い事業を運営する企業と相性が良いです。また、BtoCのメーカーや小売店で、SNSフォロワー数が多い企業も、多くのサンプル数とデータを取得できるでしょう。
オフライン
オフライン上でのテストマーケティングは、ユーザーの感情や私生活に密着したフィードバックが獲得しやすいのが特徴です。また、インターネットを使用しない高齢者層にもアプローチできるのも強みでしょう。
具体的な手法としては、以下の2つがあります。
- 会場テスト(実店舗テスト含む)
- ホームユーステスト(モニター調査)
会場テストは、多数の対象者をあらかじめ指定した調査会場に集めて、試食や日用品を実際に使用してもらい、顧客の反応を観察したり、感想・反応を収集したりする方法です。秘匿性が高い環境で調査を行うので、幅広い素材を提示できる点が強みで、多くのサンプル数を集めることが可能です。
会場テストの中には、不特定多数の見込み客が集まる催事などで、イベント施設にブースを出して行うケースもあれば、商業施設内の自社の店舗などで試験販売することもあります。
前者は、不特定多数に対して、新商品・サービスにどのような反応があるのか確かめられます。ハイエンドの新規顧客を獲得する新商品・サービスであれば、百貨店など富裕層が集まる商業施設でテストマーケティングを実践する方法もあるでしょう。一方後者は、高いリテラシーを持つ顧客が集まるので、ニッチで質の高い意見の収集に向いています。
また、試験販売を嫌がる販売店に協力を願う際には、テストマーケティングで売れた分のマージンを共有するなど、協力体制を築いていきましょう。
一方、ホームユーステストは、特定の生活者に商品を自宅で使用してもらい、アンケートなどを通じて評価を収集する調査です。一定期間のテストを依頼できるので、時間的な経過や生活者の生の声を聞くことができる点が強みです。
オフラインでのテストマーケティングは、実店舗に商品を卸すメーカーや高齢者層をターゲットにした商品・サービスを開発する企業には最適な手法といえます。
なぜ今、テストマーケティングが求められているのか
では、なぜ今、テストマーケティングが求められているのでしょうか。
リスク回避に最適なテストマーケティング
最大の理由は、テストマーケティングは「売れない」状況を避けるために効果的な手法であることが挙げられます。新商品を市場に投入する際は、多大なコストがかかりますが、テストマーケティングを実践することにより、売れない商品を大量につくったり、多大な投資額を無駄にしたりすることを避けられます。
テストマーケティングの要諦は「設定したターゲット層に対して、本当に新商品・サービスが売れるのか」の確認にあるからです。
顧客の“生の声”を聞き、客観的な判断が可能に
また、商品開発のプロセスにおいては、市場調査やターゲット設定の業務の際に、顧客の声を反映します。しかし、実際に商品やサービスのプロトタイプが出来上がり、テストマーケティングの段階に達するまでは「アイデア=企画」段階でしかありません。
つまり、実際に商品・サービスに対する声はまだ聞けていない状況です。そこでテストマーケティングを行うことで、提供する価値が見込んでいる成果を挙げられているのか否かを確認し、商品・サービスに磨きをかけることができます。また不特定多数の顧客に対してテストマーケティングを行えば、ターゲット層にズレが生じていないかも確認できます。
このように、効果的にテストマーケティングを実践すれば、新商品が「絵に描いた餅」になるリスクが軽減されるのです。
社内の空気悪化も防ぐ?
新商品・サービスの開発・市場投入には、リスクが伴います。企業としても新たな収益源をつくるべく、これまでやってこなかった手法に取り組んでいるので、担当者へのプレッシャーも大きいでしょう。
そうした中では、できるだけ大きな失敗は避けたいものです。テストマーケティングを行えば、ある程度の市場の大きさや販路開拓の実現可能性を前もって知ることができます。
そうすれば、新商品投入に必要なゴーサイン(管理者からの承認)も得やすいですし、あまりにも当初の計算とかけ離れた結果が出た場合は、商品開発プロセスを見直すことで改善点が見つかるかもしれません。
このように、リスクを取りながらも、失敗を最小限に抑える努力をしていれば、大失敗で社内の雰囲気が悪化することは避けられます。そうした社内政治的な意味でも、テストマーケティングを正しく行うことは重要なのです。
テストマーケティング実践に向けて
次に、実際にテストマーケティングを行う際に、大切になる視点について紹介していきます。
検証目的を明確にする
テストマーケティングを実践する際の検証目的を明確にしましょう。闇雲に商品の感想を聞いても優れた分析結果は得られません。考えられる目的としては、以下のような項目があります。
・商品・サービスの仕様
商品・サービスの性能やサイズ(規模)、価格、デザインなどは売上を左右します。これらに対して、ユーザーがどのような反応を示すか、テストマーケティングの段階で知っておきましょう。
・ターゲットの属性
ターゲットの属性を確認できるのがテストマーケティングの強みです。性別や年齢はもちろん、ターゲットの趣味嗜好や、居住地域、ライフスタイルまで知ることができればベターです。
・流通チャネル
商品やサービスがどのような経路をたどって顧客の手に渡ったのかも確認しましょう。これをチェックすることにより、在庫過多のリスクの低減や、販売エリアの再考もできます。新商品・サービスをどの流通チャネルに流せば売上を最大化できるのかを結論づけることが、テストマーケティングの大きなゴールです。
・プロモーション
テストマーケティングを行う際に、実際に放映する予定のプロモーションを流すことも有効です。広告の中身やデザイン、媒体に訴求力があるのかどうか確かめておきましょう。
リサーチ項目の例
上記で述べた検証目的を明らかにするために、具体的にリサーチ項目を聞くことが必要です。オンライン・オフライン、調査手法に関わらず、以下7つの項目に近似した要素は網羅しておきましょう。そうすれば、商品開発や販促経路に磨きをかけられるからです。
- 新商品・サービスの特徴に対する評価と好感度
- ラインアップ(種類)への評価
- 購入したいと決めた人の理由
- 購入しないと決めた人の理由
- 価格への評価(値頃感)
- 新商品・サービスについてわからなかった点
- 回答者の属性(性別、年齢、職業、趣味、嗜好)
新規顧客か既存顧客か
テストマーケティングの対象を、新規顧客か既存顧客かのどちらかに決めることも重要です。既存顧客の場合は、すでに顧客情報もある程度入手していて広告費を抑えられるため、コストが抑えられるというメリットがあります。しかし、既存顧客に対する調査では、「この新商品・サービスが新規顧客にも受け入れられるか」というデータの取得は難しいというデメリットがあります。なぜなら、既存顧客は自社ブランドへの認知があり、それを元にした好意的な判断を行う場合も多いからです。
対して新規顧客へのテストマーケティングにおいては、集客が難しい一方で「この新商品・サービスが新規顧客を獲得できるか」という視点を確実に得ることができます。
商品・サービスの特性にもよりますが、コストを抑えたいなら「既存顧客」、客層の幅を広げたいのであれば「新規顧客」へのテストマーケティングが有効でしょう。
まとめ
本記事では、商品開発のプロセスの中の大事な業務である「テストマーケティング」について解説しました。新商品・サービス開発にリスクはつきものですが、事前にターゲット層や流通チャネル、提供価値が「刺さるかどうか」の確認を行えば、売れなかった、という事態を防ぐことができます。
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BIZ GARAGE 編集部
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