CO2排出問題は大規模な社会問題の一つで、一部の企業の取り組みだけでは解決が難しい問題です。そこで、サプライチェーン全体で脱炭素化を目指す活動に注目が集まっています。脱炭素化に向けた取り組みはどのように測定されるのか、自社ではどのように進めていくべきか、といった疑問が出てくることもあるかもしれません。
そこで本記事では、サプライチェーン全体での脱炭素化が注目される背景・指標・理由を詳しく解説します。
目次
サプライチェーン全体での脱炭素化が注目される背景
サプライチェーン全体での脱炭素化を実践するには、脱炭素化の必要性とパリ協定を理解する必要があります。ここでは、サプライチェーン全体での脱炭素化が注目される背景を、詳しく解説します。
脱炭素化がなぜ必要なのか
脱炭素化が必要とされる理由は、地球温暖化による気候変動など環境問題が深刻化しているためです。温室効果ガスの排出量が今後も増加していくと、海面上昇・豪雨や猛暑などの気候変動が訪れ、社会生活にも大きな影響を与えてしまいます。日本は温室効果ガスの主要な排出国であることから、脱炭素化に向けた取り組みは必要不可欠といえます。
また、日本で排出されている温室効果ガスのうち、企業活動に関わる排出量が一定の割合を占めています。脱炭素化社会を実現するための活動は、国や自治体だけでなく企業にとってもますます重要な課題だといえるでしょう。
パリ協定による国際的な機運の高まり
脱炭素化への取り組みが求められる背景には、パリ協定が採択されたことによる脱炭素化への国際的な機運の高まりが影響しています。パリ協定は、2015年12月のCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立しました。
パリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く抑え、1.5℃高い水準までに制限する努力の追求」という目的が掲げられています。この目的を達成するために、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡を達成する」という共通の目標が設定されています。
2020年には、日本でも2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことが宣言されました。この流れを受けて、企業にも事業を行ううえで環境に配慮した運営が求められています。
サプライチェーン全体で取り組む理由
脱炭素化は、消費者・生産者・流通販売者を含むサプライチェーン全体で取り組むことが大切です。規模の大きな企業が主導してサプライチェーン排出量の目標を設定すれば、多数の関連企業がその動きの影響を受けます。1社だけでなく、複数の企業で設備の省エネ対策やCO2排出量削減に向けた取り組みをすることで、より持続可能な社会の実現に貢献できるため、サプライチェーン全体で取り組む意義は大きいといえます。
また中小企業にとっても脱炭素化への活動にいち早く対応していくことは、自社の価値を高めることにつながります。他社との差別化を図り、ビジネスチャンスを獲得する機会が得られることも期待できるでしょう。
サプライチェーン全体での脱炭素化を測る指標
サプライチェーン全体で脱炭素化をはじめる場合、その効果や取り組みを測る指標として「SBT」と「Scope」があります。ここでは、SBTとScopeについて詳しく解説します。
SBTとは
企業が脱炭素化に向けて取り組んでいることを測る指標のひとつに、SBT(Science Based Target)があり、日本語では「科学的根拠に基づく目標」と訳されます。SBTは、企業が気候変動に対する責任を果たし、科学的に正当化された温室効果ガス排出量削減目標を設定するためのイニシアチブです。
SBTイニシアチブは、国際的な環境団体やビジネス団体などのグローバルパートナーシップによって運営されています。SBTの目的は、パリ協定で合意された目標を実現するため、企業が自社の温室効果ガス排出量を削減することです。
企業は、5年〜15年後までの温室効果ガス削減目標を設定してSBT事務局に認められれば、SBTに加盟できます。日本企業では、2023年2月時点で350社以上がSBTに認定されており、SBTに認定されることで、気候変動問題への対策に関して実践していることを投資家や消費者に伝えることができるでしょう。
Scope1・Scope2・Scope3とは
自社の事業活動だけでなく、原材料の調達・製造・物流・販売・廃棄まで、事業活動に関連するさまざまな温室効果ガス排出量を合計したものを「サプライチェーン排出量」といいます。
サプライチェーン排出量は、排出されるフェーズや企業・組織に応じて、「Scope1」「Scope2」「Scope3」の3つに分類されます。それぞれに分類される温室効果ガスは、下表の通りです。
Scope1 |
自社の事業活動により、直接排出される温室効果ガス |
Scope2 |
他社から供給されるエネルギーの消費を伴う事業活動により間接的に排出される温室効果ガス |
Scope3 |
1,2以外の事業者のサプライチェーンにおける事業活動によって排出される温室効果ガス |
出典:サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドラインVer1.0|環境省
サプライチェーンでの脱炭素化を目指すには、自社が排出する温室効果ガスの量だけでなく、サプライチェーン全体での排出量を算出・把握して削減手法を検討することが大切です。
サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組む3つのメリット
サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むメリットとしては、以下の3つがあります。
- 企業価値が向上する
- コスト削減や補助金の導入が検討できる
- 社員の意識向上と人材獲得が有利になる
企業価値が向上する
サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むと、企業価値が向上する可能性があります。カーボンニュートラルを目指す動きが世界的に加速しているなか、先駆けて取り組む企業および関連企業は、メディアの話題に取り上げられることも珍しくありません。
活動が多くの人の目に留まることで、企業のブランディング強化や認知向上につながります。また、脱炭素化にサプライチェーン全体で取り組むことにより、企業のリーダシップや社会的責任を果たしていることのアピールにもなるでしょう。
消費者や投資家も、SDGsに関連した活動を評価する傾向にあるため、イメージの向上は大きなメリットだといえます。
コスト削減や補助金の導入が検討できる
脱炭素化に向けた活動をサプライチェーン全体で実践することで、使用エネルギーが削減できます。事業にかかるエネルギー消費量を抑えることは、エネルギーにかかるコストの削減にもつながるでしょう。
事業者が省エネルギー設備への入替えを行うときに支給される補助金もあるため、支援制度などを利用して、省エネ設備を導入する企業も増加傾向にあります。
サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組めば、原材料から製品までのライフサイクル全体におけるエネルギー使用量の削減が目指せるため、1社で取り組むよりも、より効果が見込めるでしょう。
社員の意識向上と人材獲得が有利になる
脱炭素化への取り組みは社員が環境への企業責任を認識し、自分自身が環境保護に貢献できることを実感しやすく士気を高めることにも繋がります。
また脱炭素化への取り組みは、人材獲得にも影響を与えることがあります。企業の環境問題を含む社会課題への貢献度を重視する学生は増加傾向にあり、その取り組みに対して信頼や共感を得られやすくなることで、意識の高い人材の獲得につながるといえます。
環境に配慮した企業としての印象をアピールすることで、すでに在籍している社員の意欲を高めることにつながり、社外からの人材獲得に対しては企業ブランドイメージの向上により有利に働くことが期待できるでしょう。
サプライチェーン全体での脱炭素化3事例
ここでは、サプライチェーンの脱炭素化の事例を3つ紹介します。
食品メーカー
食品メーカーのA社では、新規の生産工場に太陽光発電設備を大規模に導入し、総電力の一部を再生可能エネルギーに替えて、環境負荷を低減させています。また物流工程ではグループ傘下の食品加工会社と共同で商品の輸送を行い、CO2排出量の削減に取り組んでいます。
通信販売会社
通信販売会社のB社では、再生可能な使用済みのプラスチック製の事務用品を有償で買い取り、再生ペレット製造(プラスチックの再生原料化)業者とプラスチック製品製造会社と協力して不要になったプラスチックをよりよい品質にする、付加価値を付けるアップサイクル事業をはじめました。また本社・物流センター・子会社など事業に関わるすべての車両を、電気自動車に切り替える活動にも取り組んでいます。
小売業界企業
小売業界企業のC社では、食品トレーの材料に、環境に配慮されたバイオマス容器を使い、CO2排出量の削減に取り組んでいます。輸送工程では、天然ガス自動車やハイブリッド車などの環境対応車両を導入し、駐車場にEV車用の急速充電器を設置した店舗の増加にも努めています。
まとめ
脱炭素化社会の実現に向けた活動は、サプライチェーン全体での取り組みを目指すことでより効果が大きくなるといえます。企業にとってはイメージ向上などの優位性の獲得にもつながるかもしれません。博報堂グループでは、自社の環境問題に配慮したサプライチェーンの構築を支援する「販促品・販売品のサステナブルライン」を展開しています。脱炭素化に向けて、何から手をつけるべきか悩んだときには、ぜひご相談ください。
BIZ GARAGE 編集部
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