2024年3月12~15日、博報堂による生活者発想の「トータルなエクスペリエンス」である顧客体験事例を紹介した大型ウェビナーを実施しました。4日間に渡り最新のCX事例を紹介し、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
この講演では、生成AIを顧客体験に使ったHondaの事例を通して、「コミュニケーション起点のトータル生活者エクスペリエンス」をご紹介していきます。
目次
新たな関係構築への挑戦~夢でつながる共創型の設計図プラットフォーム
スピーカー:酒井 亮祐(博報堂)
まず、今回のプロジェクトの背景から説明させていただきます。Hondaは、“The Power of Dreams”というスローガンを掲げ、夢の力を信じて人々に夢を与えてきた企業ですが、2023年に新しく、“How We Move you”という言葉を加えました。
まさに決意を新たに、次の時代を作っていく変革のタイミングで、改めて原点である夢をテーマに、ユーザーとの新たな関係を構築することに挑みました。
私たちは、今回のプロジェクトを単なる関係構築にとどまらずに、バリューチェーン全体にも好影響を与える、いわばHondaの資産になるようなプロジェクトを目指そうということでスタートしました。
そこで私たちが考えたのが、「夢でつながる共創型の設計図プラットフォーム」というアイディアです。
これは、ユーザー自身が欲しい、乗ってみたいと思う夢のモビリティ設計図を作り、Hondaのデザイナーや開発者がその設計図に触発されて未来のモビリティビジョンを描き、商品開発のアイデアのヒントにしていくという壮大なものです。いわば、顧客体験を軸にバリューチェーン全体にも波及するようなプロジェクトです。
ただし、夢なんて素敵なものをどうやってユーザーから発露させるのか?ユーザーから不平不満は聞くことはできても、ポジティブな夢はなかなか教えてくれないということで、いろいろ考えた結果、私たちが着目したのが生成AIです。
生成AIを使った「Honda DREAM LOOP AI」という体験装置
そもそも生成AIは、プロンプトと呼ばれる指示を言葉で打って、それによって動いていくわけですが、そのプロンプトには人間の意志が入っていて、夢という今回のテーマとも相性が良いと考え活用することにしました。
その生成AIを使って作ったのが、「Honda DREAM LOOP AI」という体験装置で、ユーザーが欲しいモビリティややりたいことを入力すると、設計図が生成されるAIです。
一方、Hondaの開発者やデザイナーはこのプラットフォームにアクセスして、集まった夢からインスピレーションを得て、そこに彼ら自身の創造性を掛け合わせて、未来のモビリティビジョンを生み出します。それが一つの大きな指針になって新しいプロダクト開発にチャレンジしていくという構造です。
この施策は、基本的にはオンラインでの体験ですが、参加トリガーは夢がカタチになる楽しさです。同時にリアルのイベントも展開して、設計図がインスタレーションに投影されたり、カードになるなど、リアルな楽しさも付加して、ユーザーの参加モチベーションを高めていきました。
こうして集まった、夢のモビリティ設計図は30,000以上にも及びましたが、これらはすなわち、一人ひとりの人間の想いがこもったアイディアということで、様々な角度からスクリーニングして、Hondaの社内でも議論を重ね、最終的に、1つのプロジェクトの形として、未来のモビリティビジョンが16個生まれました。
それらはNext Blue Print=「次の時代の設計図」という形で、社内外に発信しました。
今回の取組みで良かったのは、インナーの皆さんのモチベーションを新たに喚起し、新しいアイディアや発想に繋がっていったことだと思っています。
生成AIを顧客体験に活用した意義
生成AIは今、様々な企業でその活用を探っているところだと思いますが、今回、顧客体験に使ったことで、以下2つの意義があったと思います。
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これまでは参加ハードルが高く、実現が困難だった「ユーザー共創体験」が可能になったこと
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コモディティ化した市場でも、新しいアイディアを集めることが可能になったこと
最後に、生成AIを取り扱う上で重要なポイントでもある、リスクと体験とのバランスということについて触れたいと思います。
生成AIは、具体的な指示であるプロンプトを入力して画像を生成するものですが、今回はユーザーへの負荷を極限まで下げるために、プロンプトをプリセットし、一言入力すれば設計図が生成されるAIシステムを開発しました。
プリセットするプロンプトは、
- こういうものを作ってほしいという指示書き=ポジティブプロンプト と、
- こういうアウトプットはNGにしてほしいという指示書き=ネガティブプロンプト
大きく2種類あります。
今回のプロジェクトでぶち当たったのが、リスクとユーザー体験の面白さのバランスをどうとるかということでした。
1つ目のリスクは、他社の権利を侵害するものが生まれるリスク。そして、もうひとつが、Hondaの事業領域や今後の検討領域に関係のないジャンルのものや、参考にならない設計図が生成されるリスクです。
つまり、今回のプロジェクトでは、きちんとHondaの資産になるようなものが生成されるように構築する必要があったわけです。
その一方で、プリセットするプロンプトで締め付けすぎると、どれも同じようなデザインになり、ユーザー体験が損なわれるという危険もはらんでいて、そのバランスをどう取るかが非常に難しいところでした。
幸い今回は、生成AIを作っている海外の企業が、日本市場の攻略に乗り出しているという情報をクリエイティブのチームがいち早くキャッチして、システム構築やリスク検討の早い段階からチームに参加してもらい、議論を重ね実験を重ねたおかげで、目指す生成フローを構築することができました。
もうひとつ効果的だったのは、ChatGPTをここにかませたということです。当初、NGワードの洗い出しを人力でやろうとしていましたが、ChatGPTのおかげで一気に問題が解決し、無事に進行することができました。
今回のプロジェクトで感じた、生成AIの可能性ですが、スキルがない人でもアウトプットが生み出せるというところに、本質的な価値があると思っています。実際、絵を書くスキルが高くない人でも参加でき、自分が描けなかったようなものが生まれてくる体験を提供することができました。
今後も、ユーザー参加の共創の企画では、生成AIをツールとすることで割と簡単に実現することができ、生活者とブランド・企業をつなぐ架け橋になる可能性が非常に高いと感じています。
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プロフィール
(役職肩書は2024年3月時点のものです)
酒井 亮祐
株式会社博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
アクティベーションディレクター
営業、デジタル部門を経てクリエイティブへ。営業時代に養った俯瞰力とデジタル時代に培った「人が動く体験アイディアの企画力」を武器に、IMC設計、CXまで領域を広げ現在に至る。ブランド体験や仕組みづくりをコアに、メタバースや生成AIなど新たな領域に挑戦している。
BIZ GARAGE 編集部
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