2024年3月12~15日、博報堂による生活者発想の「トータルなエクスペリエンス」である顧客体験事例を紹介した大型ウェビナーを実施しました。4日間に渡り最新のCX事例を紹介し、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
この講演は、「社会価値起点の生活者エクスペリエンス」というトラックから、イーデザイン損保と博報堂が取り組んだ事例をもとに、パーパスの先にあるCXとEXのリアルをご紹介します。
目次
はじめに
スピーカー:小野瀬 学 氏(イーデザイン損害保険)、中川 悠(博報堂)
中川 まず、中央大学の露木恵美子教授の言葉を紹介させてください。これからご紹介するイーデザイン損保の&e(アンディー)というサービスに関して、露木教授はこう評価しています。
「パーパスを概念ではなく、&e(アンディー)というサービスに実際に落としている。(中略)苦悩を乗り越え成長しようとする企業のエネルギーと変革のリアルがある」 |
今回のセッションで通底する部分があり、私たちの取組みの本質的な部分も言い当てていると思い、ご紹介させていただきました。
さて昨今、トランスフォーメーションの時代と言われていて、“変革の北極星”となるパーパスの重要性がうたわれているのは皆さまご存知のとおりです。
ただし、パーパスは掲げて終わりというケースや、掲げたものをどうやって使っていいかわからないというケースも多く、せっかく生み出したのにパーパスが事業でどう具現化されて、どう変革に生かされたかという実態はなかなか語られていません。
After Purpose~パーパスの先にあるCXとEXのリアル
そこで本日は、「After Purpose~パーパスの先にあるCXとEXのリアル」というタイトルで、パーパス実践のためのTipsをお話させていただきたいと思います。本日は、博報堂の中川と、イーデザイン損保および東京海上ホールディングスの小野瀬さんの2人でお届けします。
早速ですが、まずイーデザイン損保と&e(アンディー)という新しい商品について、小野瀬さんからご紹介いただきます。
小野瀬 イーデザイン損保は東京海上グループのダイレクト型自動車保険の会社です。いわば東京海上グループのR&D拠点とも言え、保険業界にまつわる先進的なテクノロジー、ビジネスモデルをいち早く取り入れ実践し、その効果活用をグループ全体に還元するという役割を担っています。
イーデザイン損保は、ここ数年かけて変革を目指しているわけですが、最初に取り組んだのが、「イーデザインありたい姿プロジェクト」という社内プロジェクトです。全社全部門から有志を集めて、保険会社としてイーデザイン損保はどこへ向かうべきか、お客さまにどう向き合うべきかをとことん話し合い、お客さまとの繋がりの再設計図を作りました。
その結果、今までの自動車保険は、万が一のこと、もしくはもしもが起きたときにお役に立つことを第一義としていたわけですが、これからは、契約してから、万が一までの間でもお客さまの役に立てないか、毎日を支えることができないかという結論が導かれ、それを企業の新しいゴールとして設定しました。
その結果、「事故後の安心だけでなく、事故のない世界そのものをお客さまと共創する」というミッションが生まれ、新たなパーパスとして掲げることになりました。
そのパーパスを実現するために考えたのが、「共創する自動車保険(&e(アンディー))」です。これは、スマホを使ってお客さまの日々の安全運転をサポートし、みんなで事故のない世界を目指すものです。
急発進、急ブレーキ、急ハンドルや、万が一の場合の衝突を検知し、それらが全てデータとしてクラウドに上がり、上がったデータから、そのお客さまの運転の癖であったり、運転の傾向を測定し、万が一が起きないように安全運転のためのアドバイスを差し上げることをサービスのコアにしています。
「&e(アンディー)」で取得した運転データを活用して様々な「パーパスアクション」を展開
中川 &e(アンディー)で取得した運転データを活用して、さまざまなパーパスアクションを展開したわけですが、たとえば、渋谷区と連携し、&e(アンディー)の運転データを基にした事故リスクマップを作成しました。
他にも、モータージャーナリストの協力のもと、安全運転解説動画を作ったり、登山アプリと共同で“登山者の安全を共創する”プロジェクトを展開したり、“魔の7歳事故”の防止に向けた、危険個所をマップ上で可視化するWebサービスも開始しました。
こうした「パーパスアクション」を実践しながら、一方で、短期的な契約数を伸ばすためのビジネスアクションも併行しながら進めたのが、今回の特徴でもあります。具体的には、センサー付き自動車保険の民主化を目指して、センサーを親しみやすいキャラクターに仕立てたマスコミュニケーションを展開しました。
つまり、事故のない世界を共創するというパーパスを掲げ、分断しがちな「パーパス」と「アクション」をバリューチェーンをまたいで実践したのが、今回の&e(アンディー)です。では、これらによって、どんな成果が生まれたのでしょう?
小野瀬 まず、お客さまやパートナーの企業から、今までの自動車保険にはなかったようなコメントや応援をいただけています。それから、社員の声です。こちらも社員が少しずつ変わり始めているという空気を感じ始めています。
例えば事故のときだけではなくて、お客さまの毎日の運転に役立てていることが嬉しいという声や、パートナーさまとお会いしてぜひ応援したいという声をいただくことで、新しい活力、エネルギーが生まれています。
もちろん、実際には理解のグラデーションもありますし、テクノロジーや技術面の課題もありますが、冒頭の露木教授の言葉にあったように、そういったことを一つひとつ乗り越えていくことで、社員が、企業が強くなっていく。
イーデザイン損保はまさに、そのプロセスの真ん中にいる感じています。ビジネスの成果も徐々に生まれ始めています。お客さまの事故率は下がってきており、共創先の数もどんどん増えています。
今回のプロジェクトでは、自動車保険という枠組みを取り払って臨むことで、パーパスを作りました。しかも、そのパーパスを掲げるだけではなくて、実際にサービスに落とすことによって、それを運営する社員に新しい体験が生まれました。
さらに、その体験を通したサービスをご提供することでお客さまの新しい体験が生まれる。お客さまの声を、また社員が受け止めて、サービスをよくしていく。そんなループを作ることができたと思います。まさに、リアルなCXとEXという両輪を連携させることで、実態ある変革を実現できたのではないでしょうか。
ダイレクト保険を超えた新たな「作戦」づくり
中川:ダイレクト保険というと、どうしてもダイレクト広告がメインになってきて、テレビCMを打ってWebに誘引して、そこから契約に繋げるというのが一つの型だったと思います。
でも、イーデザイン損保の&e(アンディー)は、サービスを中心としながら、日々の体験を作っていく。そして、そこからファンが増えて、そういう社会を作りたいというパートナーが広がっていくという、新しい顧客創造のあり方が実現できたと思います。
CX(顧客体験)向上に課題がある方へ 「HAKUHODO CX FORCE」では、生活者価値を起点に、組織・人材・事業戦略領域から、商品・サービス開発、販促・店舗・CRM・アフターサービスに至るまでのバリューチェーン全体のオンラインとオフラインを統合し、すべてのフェーズで優れた顧客体験を提供することができます。企業のビジネス成長を支援し、「長く愛され続ける」ブランド育成につなげ、企業の新たな価値を創出します。⇒ご相談はこちらから |
プロフィール
(役職肩書は2024年3月時点のものです)
中川 悠
株式会社博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
戦略CD
大学卒業後、メーカーのエンジニアとして携帯電話の開発に携わった後、2008年に博報堂入社。現在は、戦略CDとして、広告のみならず、事業、商品、デジタルサービスと領域を超えて得意先に寄り添い、企画を考え、カタチにするお手伝いをしています。アイデアによって事業が成長し、人々を幸せにする新しい文化が根付いていくことを志しています。2022年にAsahi BEERYでACCマーケティング・エフェクティブネス部門 受賞。
小野瀬 学 氏
イーデザイン損害保険株式会社
チーフ・クリエイティブ・オフィサー
東京海上ホールディングス株式会社
デジタル戦略部 シニアプリンシパル
2000年に広告会社入社、2011年に博報堂に中途入社。デジタル領域のマーケティング/体験設計業務等の後、同社クリエイティブディレクター、クリエイティブ局 局長代理を経て、2022年4月より、東京海上ホールディングスに移籍。現在は東京海上グループR&D拠点 イーデザイン損保のチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして、パーパス「事故時の安心だけでなく、事故のない世界そのものを、お客さまと共創する。」の実現に向けた、社内外のコミュニケーション、サービス開発、企業間共創等、あらゆる領域の推進と変革を担う。
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。