2024年3月12~15日、博報堂による生活者発想の「トータルなエクスペリエンス」である顧客体験事例を紹介した大型ウェビナーを実施しました。4日間に渡り最新のCX事例を紹介し、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
この講演では、社会を味方に応援される企業になるソーシャルポジショニングという、社会価値起点の生活者エクスペリエンスを実現している事例をご紹介します。
目次
はじめに
スピーカー:菅 順史(博報堂)
2021年に出版した書籍『なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション』で紹介した、ソーシャル・ポジショニングというアプローチについてお話させていただきます。
なぜ今、企業に社会価値が求められるのか
「ソーシャル・ポジショニング」というのは、社会を味方にしながら企業の事業成長に繋げていく方法論です。今、SDGsやパーパスの広がりに伴い、企業には、「経済価値の創出」と「社会価値の創出」という両輪が求められています。
同時に、生活者の意識も大きく変わってきていて、20年前には、製品・サービスの品質や技術力が生活者から好まれていた傾向がありましたが、2010年代になると、生活課題の解決力が企業に対する評価ポイントになっていることが調査を通じてわかってきました。
さらに、2015年あたりからは、社会変化への対応力が重視されるようになり、社会にとって必要な企業であることが、生活者にとって好まれる傾向にあることがますます顕著になってきました。
また、製品への満足度に関しては、ほとんどの市場において生活者は、製品サービスの質に既に満足しているという実態も浮かび上がっています。つまり、今後、製品の質を多少なりとも上げたところで差がつきにくい、いわばコモディティ化した市場が多いと結論づけられます。
価格に対する意識を聞いてみても、8割以上の人が社会価値を提供している企業であれば5%以上の価格アップも許容できると回答しています。これらのことから、企業の社会価値が生活者にとっての付加価値になっていることがわかります。
「ソーシャル・ポジショニング」というメソッドは、こうした背景を踏まえて生まれたもので、従来の3Cと言われるマーケットポジショニングに対して、ブランドの思想や姿勢、もしくは実際に行っている事実や実態を、社会課題や社会の変化と関連付けながら、いかに企業が社会の中で必要とされる役割を実現できるかということを具体的に追求する方法論になります。
事例から導かれた7つのボジショニング
「ソーシャル・ポジショニング」には、「応援者」「挑戦者」「破壊者」「民主化」「新世代」「シンボル」「逆張り」という、事例から導かれた7つのポジションがあります。
これらは、実際に社会から応援されることに成功した企業の事例をベースに、どういった要素があると社会において必要とされるポジションを作っていけるのかということを体系化したもので、それを実際の業務でも実践しながら磨いてきたメソッドになります。
本日は、この中から、「応援者」と「破壊者」、2つのポジションに関して、具体的事例を通じてご説明いたします。
「応援者」の事例~ライフルホームズ「フレンドリードア」
まず1つ目が「応援者」というポジションです。これは、社会が変化する中で、新しく生まれてきている課題を抱えている生活者を見つけて、そうした生活者に寄り添いながら応援していく企業というポジションです。
具体的には、“誰の味方のブランドか”ということを明確にし、応援を表明することで社会から賛同を得ることと、ブランドが解決できる課題を抱えている生活者を見つけ、彼らの味方になることです。
社会の中で人知れず困っている、でも他の企業が手を差し伸べていない、そういった生活者を発見して、具体的にその人たちが喜んでくれる、役に立てるようなサービスを作って提供していく、そういったアプローチになります。
ここで「応援者」の具体的事例として、ライフルホームズの「フレンドリードア」という施策をご紹介します(実際に自身が担当した業務ではなく、外から見て分析した事例です)。
これは、部屋を借りづらい、あるいは入居を拒否される外国人や65歳以上の高齢者、LGBTQの人たちを「住宅弱者」と名づけて、彼らを応援する取り組みです。具体的には、フレンドリードアのサイトで、「住宅弱者」の方に寄り添って応援する不動産会社を選定して、その人たちと繋がれる、マッチングできるサービスを提供するというものです。
この取り組みは2019年から始まりましたが、最初は400店が参画していたものが、3年で10倍に増えて、今では4,000店が参加しているプロジェクトになっています。
生活者に対してありのままの生き方をサポートするというライフルホームズの企業姿勢を示すとともに、一緒にビジネスをやっていく不動産会社も味方に付けていくことで事業成長にも貢献している好例だと思います。
「破壊者」の事例~ソフィー「#No Bag For Me」
2つ目は「破壊者」というポジションです。これは、商品やサービスに関連する“理不尽”“非合理”な固定観念を打ち破り、世の中をより良い方向へ前進させるブランドとして社会を味方につけるアプローチですが、現状を打破する際は、生活者も参加できる余白を作ることが重要になってきます。
具体的には、ブランドのドメインと関連するようなテーマの中で、古い価値観があることによって生きづらさを感じている人たちを見つけ、原因となっている固定観念を打ち破っていくアプローチです。
ここでは、ソフィーが行った「#No Bag For Me」という事例を紹介したいと思います(実際に自身が担当した業務ではなく、外から見て分析した事例です)。
生理の悩みは正しい情報を知り自分に合ったケアをすることで解決することもあるのに、世の中には、生理の話はタブーという固定観念がある。このタブーを打ち破ろうとする取り組みになります。
ソフィーは、元々、生理用品がまだ店の奥にしまわれていた時代に、誰もが生理用品を買えるものに変えたブランドです。今回の「#No Bag For Me」という取組みでは、生理の話題をタブー視する風潮が正しい知識や理解を深めていくことを阻害しているという立場で、生理を隠すものから語れるものに変えて、結果的に多くの女性が自分に合った生理用品を選べる選択肢を広げました。
ドラッグストアなどで生理用品を買う時に、中身の見えない紙袋(Bag)に入れられてしまう商習慣に着目して、“私は紙袋は要りません=No Bag For Me”ということを掲げていく取り組みです。
これは、様々なメディアで話題になり、オピニオンリーダーにも発話を促し、実際SNSの発話量も2倍になって、世の中の関心を高めました。
ソーシャル・イン発想の「3S分析」
以上、ソーシャル・ポジショニングの中から、「応援者」「破壊者」2つポジションを紹介しました。
商品の品質だけでは差別化しづらい時代に、しっかり社会の中で自分たちの役割を示すメソッドを実践することで、結果的に生活者からの支持を獲得し、一緒にビジネスを進める企業や団体、自治体を味方につけることができる、そういう武器になるのではないかと考えます。
最後に、社会に応援される7つのポジションですが、企業のポジションを見つけるときに私が意識している点が3つあります。
マーケット・イン発想の「3C分析」に対して、ソーシャル・イン発想の「3S分析」と呼んでいるのですが、社会の中で必要とされる企業になるために、自分たちがどこで役立てるかということを探していくときに大事になってくるのが、①社会②生活者③企業ストーリーという3つの視点です。
もっと詳しく説明すると、
- 社会:“みんなが知っている社会課題の、みんなが知らない側面”の発見
- 生活者:“社会課題と接続する生活者インサイト”の発見
- 企業ストーリー:“企業の歴史に基づいて企業の存在価値”を再定義すること
ということです。 ぜひ、参考にしていただければと思います。
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プロフィール
(役職肩書は2024年3月時点のものです)
菅 順史
株式会社博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
戦略CD/PRディレクター
2010年、博報堂に入社。「社会発想」を武器にクライアントのコーポレート・コミュニケーションを支援するPR戦略局を経て、2013年に「生活者発想」を掲げる博報堂のフラッグシップシンクタンク・博報堂生活総合研究所へ異動。エスノグラフィーや未来研究に従事。その後、クリエイティブの部門に異動し、コミュニケーション戦略の立案から実施までを統括するほか、新規事業開発などにも携わっている。これまでにACC TOKYO CREATIVITY AWARDSやPRアワードグランプリ、グッドデザイン賞などを受賞。
BIZ GARAGE 編集部
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