はじめに
スピーカー:中川 悠(博報堂)
まず、アサヒ飲料にとって悲願だった緑茶ブランドを、どんな風に発想し開発したのかですが、ほぼゼロからのスタートで、5年間にわたり一緒にやらせていただきました。そのタッグを組んだ商品開発を可能にしたのが、タイトルにある「プロダクトアウトとマーケットインの融合発想」です。
バリューチェーンの上流から併走
通常、私たち広告会社の業務は、得意先から出来上がったプロダクトを受け取って、その売り方を考えていくというプロセスが多いのですが、今回の「颯」の場合は、モノづくりの段階から並走して開発していきました。
つまり、製造方法や技術などのプロダクト開発を進めながら、世の中の潮流や生活者のニーズといったマーケットインの視点で検証し、そのプロセスを何度も何度も繰り返しながら商品化していったわけです。
今回の業務のそもそものきっかけは、私が博報堂社内で主催している「ヒット習慣メーカーズ」というプロジェクトでした。
その名のとおり、生活者の新しい習慣の兆しを探る活動で、単に新商品を発想するだけでなく、生活者の新しい行動習慣を作ることを目指すプロジェクトです。
今回は、この社内プロジェクトをベースに自主プレゼンをさせていただき、開発がスタートしました。実際、マーケットインの方向性に関しては、ヒット習慣メーカーズの開発フレームを活用し、ワークショップを重ねて探っていきました。
国内の緑茶市場を分析すると、ユーザーの高齢化が進んでいることがわかりました。四天王と呼ばれるブランドが居並ぶ緑茶市場は、旨味とか濁りとか、やや重い感じの方に進んでいました。
しかも若い人たちはすでに、水や無糖茶に流れていたので、私たちは、彼らのニーズを掘り起こすような新しいお茶を開発しようとゴールを定めました。それが今回、「颯」で実現した“香りが良くて、ゴクゴク飲めるお茶”というコンセプトです。
次に、すっきりゴクゴク飲める緑茶を実現するためはどうすればいいのかということを、茶葉の選定、製造技術というプロダクト視点でバックキャスト的に考えていきました。たとえば、茶葉の選定に関しては、私たちが直接産地に行き、「すっきりゴクゴク飲める緑茶」に見合うファクト探しを行いました。
その過程で、緑茶づくりは、本当にいろいろな人が関わっていることがわかり、そこで出会った人たちの意見も参考にしながら議論と検証を重ね、目指す緑茶の味を絞り込んでいきました。そうしてマーケットインとプロダクトアウトをぐるぐる回しながらたどり着いたのが、「微発酵茶葉」という選択でした。
“邪道を王道に”というブランディング
実は、この「微発酵茶葉」は、緑茶の世界では邪道とされていたものですが、私たちはあえて、この可能性を信じ、“邪道を王道に”というブランディングで進めることにしました。
ただ、ここで難しかったのは、どうすれば“新しい王道”を作れるのかということでした。緑茶という市場において、邪道を邪道として扱うとニッチになります。では、邪道であることを生かしながら、王道感を出していくためにはどうすればよいでしょうか。
私たちは、パッケージ、ネーミング等のクリエイティブを通して表現することにしました。CMでは八村塁さんを起用し、“叫びたくなる緑茶”というコンセプトで、革新的でありながら堂々とした世界観を表現しました。
結果的に、通常の緑茶とは真逆の評価を獲得し、緑茶から離れていた若年層を再び取り込むことができました。とくにSNSでの話題化や斬新な新聞広告なども好感度を高め、ヒット商品番付に入ることもできました。
今回の業務では、いろいろ試行錯誤しながら、プロダクトアウトとマーケットインをぐるぐる回して進めていったわけですが、結果的に、攻略が困難とされてきた緑茶市場に風穴を開けることができたのではないかと思っています。
最後に、とても大事だと思ったのは、コンセプトを提案して終わりというケースが多い中で、とくに商品開発においては、要素技術とか製造方法とか、ファクトにこそ生活者発想を入れて、強い商品を作るべきだということです。
そのためにも、クライアントと一緒になって、上流からのプロダクトアウトとマーケットインを融合させることは、他のケースにも応用できる戦略だと思います。
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