ビッグデータの蓄積が社会に浸透する一方で、「データはあるが活用方法がわからない」「最適な顧客体験を提供したいが、顧客データを分析する技術がない」「データを活用してバリューチェーンを改善したい」など、企業が抱える悩みや目的が“データ活用”にシフトしています。
そうした中で、データを効果的に分析し、有益な価値を導き出すデータサイエンスの重要性が高まっています。同時に、データを活用し、生活者に理想的な購買体験やサービスを提供するためには、テクノロジーを扱うスキルに加え、マーケティングの視点も不可欠になります。
そこで今回は、テクノロジーとマーケティングの知見を併せ持ち、AI・データサイエンスを用いてクライアントの課題を解決する専門チーム「Data Science Boutique(データ サイエンス ブティック)」が、新たな発想に基づく次世代型マーケティングを解説します。
目次
企業のDX推進を支援する機能を統合したHAKUHODO DX_UNITED
今回ご紹介するAI・データサイエンスでマーケティングを高度化するソリューションは、博報堂のData Science Boutique(以下、DSB)と、株式会社 Laboro.AIがワンチームで提供しています。まずは、その2社の強みからご説明します。
2021年、DSBの母体となるHAKUHODO DX_UNITEDが、クライアント企業のDX推進を支援する組織として発足しました。マーケティングDX・メディアDXに必要な総合プロデュース機能やデータマーケティング戦略プランニング機能、システムコンサルティング機能、ソリューション開発機能、クリエイティブ機能などを統合し、コンバージェンス力=掛け算の力を提供しています。
この組織が発足した背景には、生活のさまざまな部分で革新を生み出しているデジタル技術の進化が存在します。特に、オールデジタル化/生活のデジタル化は近年著しい進化を遂げており、自動車業界のコネクテッドカーや住宅業界のIoT化など、デジタルの接点を介して生活者と企業が常時つながる生活が実現しています。
そうした生活者との接点=インターフェースの多様化に伴い、生活者インターフェース市場という新たな市場が成長を遂げています。そして、生活を革新するモノやコト、サービス、ソリューションなどを企業が提供するこの市場は、非常に大きなビジネスチャンスを秘めていると博報堂は考えています。
関連記事:AI・データサイエンスでマーケティング課題を解決する「Data Science Boutique」(前編)
生活者インターフェースが成長する循環の仕組みを設計
生活者インターフェース市場の特徴は、日々、生活者のデータが生成され、蓄積されていることです。それらのデータを分析・活用することで、生活者に新たなエクスペリエンスがもたらされます。そして、エクスペリエンスが新たなデータを生み出すという循環によって、ビジネスが大きく成長していくと考えられます。
HAKUHODO DX_UNITEDは、その“循環の仕組み”の設計を担い、生活者のエクスペリエンスを拡充し、獲得したデータに基づきアルゴリズムを強化することで、生活者インターフェースの成長を支援することを目指しています。
具体例として、住宅メーカーのIoT住宅や、自動車メーカーのコネクテッドカーなどがあります。モノを売って終わりではなく、その後もサービスを提供し、データを分析することでエクスペリエンスを拡充していく循環を支援しています。
また、自社アプリの会員証機能実装、自社EC開設/D2Cブランド開発などによって、顧客一人ひとりのニーズに合った1to1 CRMの推進もサポートしています。
生活者データを駆動させるエキスパートが揃ったData Science Boutique
HAKUHODO DX_UNITEDの横断プロジェクトとして、2022年、AI・データサイエンスを用いてクライアントの課題を解決する専門チーム・Data Science Boutique(以下、DSB)が発足しました。
ミッションは「生活者データを駆動させる」ことです。ここ数年のトレンドでビッグデータを扱う企業が増え、データを蓄積する環境が整ってきましたが、データそのものに価値はなく、活用することで初めて価値が生まれます。だからこそ、AI・データサイエンスによってデータを駆動させ、生活者の理解やマーケティングの意思決定、行動喚起のアップデートを支援したいと考えています。
データ活用に関して、企業は多くの課題を抱えています。そもそも、溜まったデータをどう活用すればよいかわからなかったり、データを分析できる人材が不足していたり、目的が曖昧なままデータを分析し、手段が目的化しているケースも目立ちます。特に、データ分析ができて、かつ、マーケティングの知見を持ったデータサイエンティストは希少性が高いとされています。
DSBは、博報堂の強みであるマーケティングの知見をベースに、データ解析や機械学習モデルなどの開発を担う専門チームです。メンバーはデータサイエンティストを中心に構成されており、データ分析結果からマーケティング戦略を立案するデータストラテジストや、事業そのものの位置づけや価値を整理するプロデューサーなども在籍しています。まさに、データサイエンスとマーケティングの知見を併せ持った組織なのです。
データ分析・戦略立案からAIコンサルティング・開発実装まで一気通貫でサポート
では、AI・データサイエンスを用いて生活者のデータを分析することで、何がもたらされるのでしょうか?
まず、データを分析することで生活者の理解を高度化し、より高い解像度で顧客や見込み客を分析することができます。さらに、分析から予算配分の最適化やシミュレーションを行い、最良の意思決定を後押しすることが可能です。そして、顧客のスコアリングやレコメンデーションアルゴリズムを開発することで、価値創造に貢献します。
実際のプロジェクトでは、DSBはデータパートナーとして企業と共創し、分析から施策実行までを一気通貫で支援しています。提供サービスは大きく分類すると2種類あります。
1.データ分析・戦略立案サービス
データサイエンティストがマーケティングデータを分析し、課題発見から戦略立案までを提供する、いわゆるデータ分析業務です。基本的にはクライアント企業のニーズに合わせた分析プロジェクトを提案しています。
例えば、「1stPartyDataの全容を把握したい」というニーズがあれば、基礎分析プロジェクトとして売上の構成や顧客セグメントを分析します。「顧客育成戦略を構築したい」というニーズも多く、その際は、顧客のアップセルやファン化を実現するために、セグメント規定・育成計画プロジェクトを提案し、顧客ランク分析や顧客クラスタリングなどを行います。
分析レポートの提出はもちろん、月次レポート形式、モニタリングダッシュボード形式にも対応しています。また、ターゲット顧客の解像度UP・深堀分析を行うため、商品併売分析やクラスタリング分析、カスタマージャーニー分析などを行ってレポートを作成することも可能です。
「データ分析・戦略立案サービス」についてさらに詳しくはコチラから
2.AIコンサルティング・開発実装サービス
クライアント企業の課題に合わせて、AIモデルの提案・設計・開発を行い、マーケティングを高度化するオーダーメイドのAIコンサルティングサービスです。
基本的には、クライアント企業にビジネス上の課題、保有するデータの種類や量などをヒアリングしたうえで、AIモデルを作り上げていきます。下記図のように、将来的に顧客から離脱する可能性のある顧客を予測するモデルや、店舗の日時単位で需要を予測するモデルなど、ニーズの高いものはメニュー化してクイックに対応しています。
AIモデルを作る場合、モデルの精度を確かめるための検証や、実際にビジネスで活用した際のROI(投資利益率)試算などを実施し、有効性を確認したうえで導入・運用のサポートも行っています。
「AIコンサルティング‧開発実装サービス」についてさらに詳しくはコチラから
Laboro.AIの開発力と博報堂のマーケティング力が相乗効果を生み出す
オーダーメイドによるAIの開発・運用・コンサルティングに関しては、博報堂と資本業務提携している株式会社Laboro.AIとワンチームで取り組んでいます。
Laboro.AIは、「すべての産業の新たな姿をつくる」「テクノロジーとビジネスを、つなぐ」をミッションとし、技術力の高さのみならず、テクノロジーとビジネスの知見を有し、コンサルティング能力を持つ人材「ソリューションデザイナ」が在籍している組織です。ビジネス領域は、クライアントのコア業務をオーダーメイドによる「カスタムAI」開発によって変革し、ビジネス成果につなげることで、3つの強みを持っています。
①オーダーメイド開発「カスタムAI」
制約がないカスタマイズ力に加え、技術内容やプロセスをブラックボックス化しない伴走型AI開発を実行しています。
②約70%という高いプロジェクト継続率
AI適用の可否や適用方法などを、企画段階からPoC(概念実証)、運用まで一気通貫で検討することで、長期的なプロジェクトに育てています。
③多彩なデータ・技術
深層学習や機械学習、最適化や強化学習など、幅広い技術範囲をカバーしています。
豊富なノウハウを持つソリューションデザイナと機械学習エンジニアがクライアント企業と伴走し、企画段階から支援することで、精度追求や技術提供だけではない、業務での活用を重視したAI開発を見極めている点も特徴です。また、将来的なマルチモーダル化を見据え、下記のようなさまざまな技術を多用な業種に提供し、クライアント企業と包括的なパートナーシップを組んでいます。
Laboro.AIが持つAIの開発・運用能力やコンサルティング機能と、博報堂が持つ生活者への深い洞察力を活かしたマーケティングを組み合わせることで、より大きな相乗効果が生まれると考えています。
関連記事:マーケティング×AI・データサイエンスで、新たな価値創造にチャレンジしていく(後編)
業種を問わずさまざまな領域で進むAIの活用
DSBの実績としては、某化粧品会社において、百貨店などのリアル店舗と自社ECの顧客データを1IDで一元管理し、タッチポイントごとに最適なメッセージを打ち出す戦略および運用を提案しています。チャネル横断のシームレスな顧客体験、刻一刻と変化する顧客ニーズに合った提案、常時接続できる寄り添い型サービスを通じて、リアルとオンラインを横断した理想的な顧客体験の提供を目指しています。
食料品メインのディスカウントストアの事例では、店内に設置したカメラの動画データを活用し、小売店舗向けカメラソリューションを開発しました。POSでは把握できない棚情報・購買行動前のデータ化を可能とし、店舗運営やマーケティングに活用しました。
リテールビジネスにおいて、生産・仕入れにおける発注自動化や需要予測、店舗運営における棚割り最適化、接客・販売における値引き最適化などにAIを活用したいというニーズは年々増えています。
まとめ
AI・データサイエンスの技術とマーケティング視点を組み合わせることで、生活者に理想的な購買体験やサービスを提供し、企業が抱える業務上の課題解決が可能となります。
マーケティングにおけるデータ活用に課題を持つ企業や、AIや機械学習を駆使したデータ活用に興味がある方は、ぜひご相談いただければと思います。
髙栁 太志(たかやなぎ たいし)
HAKUHODO DX_UNITED/博報堂DXソリューションデザイン局
データストラテジスト。マーケティングでのAI・データサイエンス活用におけるプロジェクトマネジメント及び戦略プラニング・コンサルティングを担当。データサイエンティストと二人三脚で、クライアント企業のDX推進・データサイエンス活用をサポートする。
藤井 謙太郎(ふじい けんたろう)
株式会社 Laboro.AI
プリンシパル・ソリューションデザイナ
2009年に富士通株式会社に入社。プログラマや上流設計担当・プロジェクト管理等を経験。 2013年にPwCコンサルティング合同会社に参画。メガバンク等の金融機関における経営管理を専門とし多数のプロジェクトに携わる。 2019年にLaboro.AIに参画。AIを活用したレコメンドアプリ、カメラを活用したソリューション開発、データを活用したPF検討のコンサルティングなど、広範な検討フェーズ・使用データ・産業において様々なプロジェクトを主導。21年1月より現職。