データドリブンなデジタルマーケティングを継続的に実践していくためには、マーケティングシステム導入後の活用・定着化が鍵となりますが、運用がうまくいかずになかなか成果を得られていないケースが散見されます。
こうした課題に対して博報堂では、クライアント企業のデジタルマーケティングオペレーションを支援するためのコーチングプログラム「HAKUHODO Marsys Onboarding」を提供しています。
本記事では同プログラムの概要や特徴に加えて、湯快リゾート株式会社との取り組み事例をご紹介いたします。
目次
フルファネル型デジタルマーケティング成功の鍵はシステムの活用と定着化
生活者を起点にしたフルファネル型のデジタルマーケティングを実践するには、データの収集・活用が不可欠です。多くの企業では、自社のWebサイトやECサイト、リアル店舗などの顧客接点から購買情報などの顧客データを収集するCDP(Customer Data Platform)をはじめ、MA(マーケティングオートメーション)ツール、データ分析ツールなどを導入していますが、十分に活用しきれていないケースがあるようです。
デジタルマーケティングに関わるシステムの構築・導入と併せて、活用と定着化、さらにはシステムを運用して事業を成長させるまでの取り組みが課題となる中、博報堂では、クライアント企業のデジタルマーケティングオペレーションを支援するためにOJT(On-the-Job Training)形式で知識や技術を提供するコーチングプログラム「HAKUHODO Marsys Onboarding」を提供しています。
HAKUHODO Marsys Onboarding概要
同プログラムはデジタルマーケティングに精通した専門人材が並走しながら、実行体制づくり、マーケティングツールへの習熟や業務プロセス化などのサポートを通じて、システム構築とグロース運用化の橋渡しをしていくものです。
マーケティングオペレーションの自走化を支援する「HAKUHODO Marsys Onboarding」のご紹介資料は、下記よりダウンロードいただけます。 |
HAKUHODO Marsys Onboardingの3つの特徴
HAKUHODO Marsys Onboardingには3つの特徴があります。
1.実行可能な“Can Be”オペレーションを策定
多くの企業において、現状のマーケティング課題(As Is)と目指すべき理想のマーケティングオペレーション(To Be)に、大きな乖離があります。本プログラムでは、クライアント企業が実行可能な”Can Be”オペレーションを策定し、システム構築とグロース運用化の確実な橋渡しを図っていきます。
2.専門人材による技術・ナレッジ移転
博報堂が培ってきたナレッジを体系化したトレーニングドキュメントの活用と、デジタルマーケティングに精通した専門人材による技術・ナレッジを移転。プログラム終了後もクライアント企業の内部人員だけでマーケティングオペレーションを主導していける状態を目指します。
3.業務プロセス策定による内製化支援
専門人材による技術・ナレッジ移転だけにはとどまらず、業務プロセス策定や運用ドキュメント整備などを通じて内製化を支援。クライアント企業がグロース運用化に向けて自走していけるよう、しっかりと並走していきます。
博報堂では、これまで蓄積してきたデジタルマーケティングの各ステップ(現状分析、課題の明確化、課題解決のために必要な各種システムの企画・構成、開発、実装、定着化)、さらには新規ビジネスの提案までのメソッドを体系化し、今後“Marsysシリーズ”として提供していくことを目指しています。 |
それでは実際に HAKUHODO Marsys Onboardingを導入・活用しているクライアント企業の事例をご紹介します。
HAKUHODO Marsys Onboardingの導入・活用でデータドリブンなマーケティング施策が可能に
~湯快リゾート株式会社~
「笑顔の源泉に」を経営理念に掲げ、現在、西日本エリアを中心に30の旅館・ホテルを運営する湯快リゾートでは、デジタルマーケティングの推進に向けてHAKUHODO Marsys Onboardingを選定。プロフェッショナルチームからのコーチングなどを通じて環境構築・自走化を進めており、すでにメールマガジンのコンバージョン率が約2.7倍に向上するなどの成果が出始めています。
今回はクライアントへのインタビューを通じて、HAKUHODO Marsys Onboardingを導入した背景やその成果についてご紹介いたします。
本プロジェクトにおける支援担当
株式会社博報堂マーケティングシステムズ |
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インキュデータ株式会社 |
デジタルマーケティングを阻んだ3つの課題
湯快リゾート(以下同社)は「笑顔の源泉に」を経営理念に掲げ、西日本エリアを中心に30の旅館・ホテルを運営。ユニークなサービスとリーズナブルな価格で成長してきた同社ですが、競合他社との競争激化やコロナ禍による市場の冷え込みなどもあり、これまで以上に顧客に寄り添ったマーケティング施策を実施する必要性が高まっていました。
マーケティング部門のセクションマネージャーを務める渡邉氏は、「これまでは当社のサービスやリーズナブルな価格を訴求するマス広告中心のマーケティングに注力していましたが、それでは他社との差別化ができなくなっていました。一人ひとり異なるお客様に向けて最適化したメッセージをOne to Oneで伝える必要があると強く感じていたんです」と当時を振り返ります。
湯快リゾート株式会社 セールス&マーケティング部 マーケティング課
セクションマネージャー 渡邉 啓介氏
一人ひとりに最適なタイミングで最適なメッセージを配信するには、より詳細な顧客データを収集し、解像度を高めていく必要があります。しかし、こうした取り組みを実施するには「3つの大きな課題があった」と言います。
1つ目は、顧客データが一元管理されていないためデジタルマーケティングに活かせなかったこと。同社ではホームぺージや電話などで受け付けた宿泊予約の顧客データは、PMS(Property Management System:ホテル管理システム)で管理。
一方、会員データやアンケートデータはPMSとは切り離されたデータベースで分散管理していたため、データの利活用がしにくい状況でした。また、複数ある予約チャネルの中には、外部の企業が運営しているサイトもあり、会員IDの連携・統合ができないため、同じお客様であってもデータ上では名寄せできていないという課題もありました。
2つ目は、一人ひとりに最適化されたメッセージを配信するノウハウが確立できていなかったこと。長きにわたってマス広告を中心としたマーケティング施策に注力してきたため、新たな取り組みを始めたいものの、何から手を付ければいいのかがわかりませんでした。
3つ目が、ロイヤリティの高い顧客を育成するために効果的な施策を立案・実行できていなかったことです。
博報堂に決めた理由は「深い事業理解」と頼れる「専門性の高さ」
先述した課題を解決するため、同社ではCDPに「Treasure Data CDP」、CRMに「Braze」、BI「Tableau」を導入。その活用の高度化や定着化を前提とする開発のためにHAKUHODO Marsys Onboardingを選びました。
選定理由について渡邉氏は「部門メンバーたちが使いやすいシステムであったこと」をあげます。顧客データの分析結果もわかりやすく表示されるため、「これならすぐにマーケティング施策に活かせると感じました」。
また、自社への思いの深さもポイントだったようです。
「複数の企業から提案を受けた中で、今後の湯快リゾートのビジネスを成長させるために誰とパートナーシップを結ぶのがベストかという視点で選ぼうと思っていました」
「博報堂さんからの提案は、当社の歩みから始まるオリジナリティ溢れるもので、その提案内容には当社ビジネスへの深い理解と今後の成長に必要なこと、何より“湯快リゾートにとって最適な仕組みを一緒に作り上げていこう”という気持ちがこもっていました。そんな思いをぶつけられてしまったら、満場一致で博報堂さんに決まりますよね(笑)」
思いだけなく、支援体制も大きなポイントでした。デジタルマーケティングを推進していくにあたって、最終的には部門メンバーだけで運用できるようになることを望んでた同社にとっては、「定着化からスキルやナレッジのトランスファーまでがスムーズに進むと想像できたことも選定の大きな決め手でした」と語ります。
その一方、「博報堂さんが広告代理店ということもあり、システム開発にきめ細かく対応してくれるのかという心配も正直ありました」と言います。しかし、実際に開発を担当するグループ会社である博報堂マーケティングシステムズのメンバーと話した時点でその不安は払拭されたそうです。
「ITに関する知識やスキルについては申し分なく、ビジネスソリューションへの理解度も非常に高い。さらに親しみやすい人柄で、私たちがシステムでわからないことも、わかりやすく説明してくれました」。
お客様に寄り添った施策によってCV率が約2.7倍に
同社では2022年8月から、顧客データを収集・活用・分析するためのプラットフォーム構築に着手し、2023年2月からはデータ活用施策の実施フェーズに移行しています。
渡邉氏は「プラットフォームの開発は機能拡張も含めて継続しています。現状は、HAKUHODO Marsys Onboardingを活用しながら開発と施策の実行、そしてスキルトランスファーが並行して進んでいる状態です」と現状を説明します。
そして、すでに効果を実感していると言います。「以前は全てのお客様に同じメッセージを配信していましたが、顧客データをより詳細に分析してセグメントを絞り、狙ったターゲットに“刺さるメッセージ”を送れるようになりました。こうした取り組みによって、 メール配信のコンバージョン率が約2.7倍まで改善されました。」と効果を示します。
また、HAKUHODO Marsys Onboardingによって提供される施策プランニングワークショップにも効果を感じているようです。「博報堂さんが実施した顧客データの分析結果をもとに話し合うことで、単なる思いつきではなく、データドリブンな施策を立案できました。これまで私たちが抱えていたデジタルマーケティングにおける課題が次々に解消されていく感じを体験しています」。
得られた効果はそれだけではありません。閲覧できる顧客データが増えただけでなく、データのつながりも見えやすくなったことによって「例えば、『学生がホームぺージにアクセスしてきたときには、学生向けプランがポップアップで表示されるような工夫をしたい』といった意見やアイデアが出やすくなった」と言います。日々顧客データに接する中で、部門メンバーの意識改革にもつながっているようです。
新たな価値や体験を提案するために多様なデータを集めて活用
湯快リゾート株式会社ではこれまで以上に“一人ひとり”に寄り添い、新たな価値や体験を提案するためにさらなるデータ活用を推進していきます。
例えば、購入機会の多いアイテムのデータなど、宿泊者の行動に基づくデータを収集・分析することで、より快適な宿泊体験のための改善につなげていくようです。「こうした取り組みを実践するには、集めたデータを分析し、仮説を立てて実行、検証するまでのPDCAを回していくことが必要です。宿泊前から宿泊中、宿泊後までをフォローすることで、お客様の体験価値を最大化する取り組みを加速していきたいと考えています」と渡邉氏は語ります。
いよいよ顧客データの活用フェーズに入った同社。見据えているのは、フルファネルでのデータドリブンなデジタルマーケティングの実践です。
更新日:
大谷 俊裕(おおたに としひろ)
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局 兼
株式会社博報堂マーケティングシステムズ
執行役員 事業企画部門長
マーケティング領域のシステム開発 / コンサルティングに従事。エンジニアリングとビジネス両面の経験から価値創出を行えるのが強み。本プロジェクトではマーケティング施策の立案及び開発業務全般のマネジメントとデータパイプラインの開発を担当。
鈴木 一志(すずき かずし)
インキュデータ株式会社 ソリューション本部
マーケティングソリューション部 兼 データマーケティング部 部長
事業企画からサービス開発、マーケティング実行支援まで幅広く業務を経験。クライアントと目線を合わせた並走を基本スタイルに、プロジェクトマネージャーとして業界を問わず企業のデジタル化推進をサポートする。本プロジェクトには全体統括として参加。