顧客ニーズやタッチポイントの多様化によって、商品やサービスの差別化のハードルが上がった今、顧客を獲得し、ロイヤリティを育成するためのCX(カスタマーエクスペリエンス)の重要性が増しています。
最適なCXを実現するためには、営業・マーケティング・カスタマーサクセスなど、組織を越えた連携やPDCAが不可欠ですが、そこには多くの課題が存在するのも事実です。
今回は、顧客洞察やマーケティング・CRMの知見を培ってきた博報堂と、1,200社以上の営業活動を支援してきた博報堂グループのセレブリックス、CRMやカスタマーサクセス領域で20年以上のコンサルティング実績のあるバーチャレクス・コンサルティングの3社の視点から、組織連携を成功させる3STEPを解説します。
目次
企業が抱える組織連携の課題とは?
私たちはこれまで、さまざまな企業の営業、マーケティング、カスタマーサクセスなどをご支援する中で「広告やサイトの改善をしているが効果が表れない」「PDCAがちゃんと回っているのかわからない」「マーケティングが営業へリード(見込み客)を渡せていない」「リードを営業が刈り取ってくれない」といった声を数多く聞いてきました。
多くの企業はこのような課題を解決するために、業務効率化や組織の連携、MA(マーケティングオートメーション)やBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入や改善に着手されます。もちろんこれらも大切ですが、それだけにフォーカスすると、実は最も重要な「顧客」という視点を忘れてしまうことがよくあります。
博報堂グループでは、マーケティング/営業/カスタマーサクセスを一気通貫し、業務プロセスや情報システム基盤の企画・構築を支援する「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」を提供しています。CRM領域に強いバーチャレクス社と、マーケ領域に強い博報堂がタッグを組みサポートします。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら
一番大切なのは「お客様の心を動かすこと」
組織改革やツール、ソリューションはあくまでも手段であり、本来の目的はお客様の心を動かすこと、お客様に商品を購入してもらうことです。だからこそ、“顧客起点”から考える営業、マーケティング、カスタマーサクセスの連携が重要になってきます。
今回は、顧客起点での組織連携のポイントとして、「効率化」「連携」「創造」の3STEPをベースに解説します。
STEP1は、営業、マーケティング、カスタマーサクセスが、それぞれ効率的にPDCAを回せるようになること。STEP2は、それぞれの組織が連携していくこと。STEP3は、マーケティングや営業に創造的な機能を追加することを意味します。では、3STEPをどのように進めていくべきかを見ていきましょう。
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STEP1.効率化:顧客インサイトの“ツボ”を押さえたKPIを設定する
私たちが重視している指標のひとつに、「顧客インサイトKPI」があります。
顧客インサイトKPIとは、顧客の行動や意識を動かす“ツボ”に直結するアクション指標のことです。一般的にKPIは、最終目標を分解した要素から重要な1つを選んで設定します。 |
例えば、下の図のマーケティングの場合、最終目標であるリード数は「資料請求ページの訪問数×資料請求率」から導き出されます。資料請求ページの訪問数は「SNS流入数」「検索流入数」「広告流入数」から構成されているため、それぞれを足した数です。
よくあるKPI「目標指標の分解」
「顧客インサイトKPI」の必要性
こうした目標指標の分解は、ボトルネックになっている部分を見つけるためには効果的ですが、ボトルネックを見つけた後、どのような改善のアクションを行えばいいのかは示していません。そこで、「顧客インサイトKPI」が必要になってきます。ある事例からその必要性を見てみましょう。
ソリューションの成約率をKPIに設定しているB2Bのクライアント企業から、売上拡大のご相談をいただきました。改善策を探るために営業やお客様からお話を伺い、データを分析していくと、「複数のソリューションを提案すると成約率が上がる」という発見がありました。
それまでこのクライアント企業は、お客様に合わせて選んだソリューションをピンポイントで提案する営業方針を掲げていたのですが、お客様のインサイトを深堀りしていくと、「ソリューション導入を上申する際、選択肢があるほうが意思決定しやすい」という声があったのです。
それを踏まえて、顧客インサイトKPIを「3商品以上ご提案した商談数」に設定し、営業スタッフの活動も成果に直結するものとしました。また、ソリューションの組み合わせや事前ヒアリングの内容、商談時の提案フォーマット等も改善を行い、最終的には売上拡大という成果に結びつけることができました。
(例)とあるB2Bメーカーの場合
分解・分析を経て、顧客インサイトのツボを押さえる
この事例が示すように、改善のアクションに結びつけるためには目標指標の分解で終わらず、その裏側にあるお客様の認識や行動、意思決定にまで深く潜り込み、顧客インサイトのツボを押さえることが重要です。また、ボトルネックの箇所によってKPIも変わってくるため、両者のPDCAを有機的に回していくことも欠かせません。
博報堂は、顧客インサイトKPIの仮説導入、検証、PDCA構築、ツールの開発を一気通貫でサポートしています。システム開発やツール/ソリューションの設定といった手段ではなく、あくまでもお客様の心を動かすこと=顧客インサイトを第一に考えた支援を徹底しています。
下図のように、システム開発やツール/ソリューションの設定はあくまでも最終部分に位置づけ、ボトルネックから顧客インサイトKPIを導き出していくという流れです。
ボトルネックから顧客インサイトKPIをどう導き出していくか
“買わない理由”を探るテストセールス
顧客インサイトのツボを押さえる事例として、セレブリックスが行っているテストセールスをご紹介します。テストセールスとは、商品を売りながらお客様のヒアリングに注力した営業支援活動です。お客様に対し、成約に向けたクロージングをかけていくことで、“買わない理由”を抽出します。
買わない理由は重要なVoC(Voice of Customer)です。VoCからサービスの強みと弱みを明確化し、営業手法や営業ツールに落とし込んでいきます。こうすることで、どのタイミングでお客様にクロージングをかけると効果的か、どのタイミングでお客様は購買行動を起こすかなど、しっかりとした仮説を持って営業活動に臨むことが実現し、仮説の検証を繰り返すことで精度が高まっていきます。
テストセールスの効果として、あるクライアント企業が成約率1.5倍、成約スピードが2倍に向上したという結果を残しています。
某求人業界企業の新規事業支援例(テストセールス)
ただ売るだけでなく顧客の解像度を上げるためのヒアリングに注力した営業活動を実施するだけでなく、案件に白黒つけるスタンスで顧客の真因に迫る営業活動を展開しました。
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STEP2.連携:自社と顧客のプロセスを両輪で回す
組織連携において私たちが重要視しているのは、「自社の目標値達成プロセス」と「顧客の意識変容プロセス」の2つのプロセスです。この両輪を効果的に回していくことが成功の秘訣だと言えます。
自社の目標値達成プロセス
「自社の目標値達成プロセス」とは、成約やアップセルなど、自社が掲げた目標数値を達成するためのプロセスです。その際、マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスと、それぞれの組織で目標値を「逆算型」で設定することがポイントです。
例えば、最終的な成約目標が20件の場合、フィールドセールスでの歩留まりを考えて逆算し目標を設定します。さらに、インサイドセールスではどのくらいの商談率が必要なのかを逆算するなど、実績値をもとに数値を設定していくことが重要です。
この取り組みを横串で管理することで、運用時のボトルネックが可視化されます。この横串の管理は「レベニューオペレーション」と呼ばれ、既に導入しているクライアント企業も少なくありません。
自社の目標値達成プロセス
成約・アップセルに向けた組織の役割定義と目標値達成に向けたファネル構造
ボトルネック部分を中心にリソースを調整
顧客の意識変容プロセス
一方、「顧客の意識変容プロセス」とは、自社のプロセスを顧客に置き換えたものです。お客様が商品を購入するまでには、想起、初期絞り込み、詳細検討、最終決定、利用、追加購入検討といった段階があります。そして、それぞれにお客様の意識や行動が存在します。この意識や行動の変遷を明らかにすることが「顧客の意識変容プロセス」の設計です。
顧客の検討~アップセルまでの意識や行動の変遷といった「どのタイミングにどんな意識を醸成すべきか?」をそのための有効なアクションや訴求価値を整理します。
「顧客の意識変容プロセス」想起、初期絞り込み、詳細検討、最終決定、利用、追加購入検討といった段階と聞くと、カスタマージャーニーをイメージされる方もいらっしゃると思います。
しかし、ここでの違いは単なるタッチポイントの整理で終わらないこと。お客様の具体的な行動と次に進むための意識を明確にする点が、顧客の意識変容プロセスの重要なポイントです。
関連記事:カスタマージャーニーの作り方・使い方
一般的なカスタマージャーニーとの違いは
顧客の心理や行動が動く“ツボ”を抑えること
2つのプロセスを両輪で回す
「自社の目標値達成プロセス」と「顧客の意識変容プロセス」、これら両輪を回すことでボトルネックの顕在化から効果的なアクションの設定までを行うことができます。
まずは、「顧客の意識変容プロセス」でお客様の意識や行動の変遷を明らかにし、段階に合わせた自社のアクションを設計します。それらのアクションと、目標値を逆算型で設定した「自社の目標値達成プロセス」が交わることで、2つのプロセスが表裏一体の関係になります。
それぞれの組織がそれぞれの目標値や役割だけを見ていると、いくら横串で管理していても結局は組織ごとに異なる方向を向いてしまいます。顧客起点に立ち、全ての組織が同じ方向に向くことが重要なのです。
自社のプロセスと顧客のプロセスは対をなす
PDCAに関しても、同じように2つのプロセスの両輪を回すことが重要です。
例えば、インサイドセールスで数字的なボトルネックが顕在化されたとします。その際、インサイドセールスのアクションだけを改善しようとしても、思うような効果が得られない場合があります。
そこで、顧客プロセスまで遡って考えていくと、実はインサイドセールス自体に問題があったわけではなく、それ以前の顧客プロセスにおける初期の絞り込みで問題が起きていたという事実に気づくことができます。
つまり、ボトルネックを解消するためには、フィールドセールスの改善だけでなく、マーケティングまで遡った改善が必要になってきます。2つのプロセスを行き来しながらPDCAを回していくことで双方の質を高め、最終的な結果へとつなげることができるのです。
(実際の運用イメージ)活動の質・量ともに改善
セクショナリズムの排除が組織連携のカギを握る
2つのプロセスは、セクショナリズムを排除する効果も期待できます。とあるB2B機器メーカーのクライアント企業は、業務もPDCAも部署ごとに行っており、組織連携に悩んでいました。そこで、私たちは2つのプロセスの構築および業務システムの構築をご提案し、部署を横断するワークショップを行いました。
すると、これまで共有されることのなかった部署ごとの想いや要求が明るみになりました。ワークショップを通じて部署間の壁が取り払われ、組織横断で業務改善やPDCAが行われるようになったのです。
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STEP3.創造:接点組織が自ら企画することで提供価値を高める
STEP3の「創造」とは、マーケティングやインサイドセールス、営業、カスタマーサービスといった販売機能を持つ顧客接点組織に、新たな機能を追加することを指します。
接点組織が商品やサービスを自ら企画・フィードバックする
例えば、接点組織が顧客を把握し、商品の企画や開発組織にフィードバックを行う創造的な機能を追加する。顧客との距離が近い接点組織が商品のあり方や付随するサービスを考えることで、顧客への提供価値を高めることができるのです。
シェア率最下位のサービスをV字回復させる方法
「創造」の効果について、とある人材サービスのクライアント企業の事例を見てみましょう。サービスをリリースしてから1年が経つも、売上が伸び悩み、マーケットのシェア率は最下位という状態でした。
そこで、私たちはターゲットの見直しや戦略の再構築を行い、テストセールスを通じてVoCを集約し、再度戦略を練り直すといった取り組みを繰り返し行いました。その結果、営業方針は大きく間違っておらず、サービスそのものをバージョンアップさせる必要があることに気づきました。
営業が求めるサービスと開発組織が重視するポイントは異なります。しかし、顧客に選ばれるサービスでなければ意味がありません。そこで、開発組織にも参加してもらい、VoCをもとにサービスのフィードバックを行った結果、2年でマーケットのシェア率No.1まで上り詰めることができたのです。
某求人業界企業の新規事業支援例(伴走型コンサルティング)
博報堂グループでは、マーケティング/営業/カスタマーサクセスを一気通貫し、業務プロセスや情報システム基盤の企画・構築を支援する「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」を提供しています。CRM領域に強いバーチャレクス社と、マーケ領域に強い博報堂がタッグを組みサポートします。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら
STEPの実行をサポートするアセスメントサービス
これまでご説明した3STEPを実践するにあたって、注意すべきポイントがあります。それは、全社・全商品で一気にSTEP1〜3を完遂しようとしないことです。
特に、全国に複数の拠点を持ち、複数の商品を展開しているクライアント企業の場合、一部の地域や商品でSTEP1〜3を実践し、徐々に他の地域・商品に広げていくという方法をおすすめします。
自社がどのステップにいるかを把握する
さらに、自社がどの段階にいるのかを把握することもポイントです。その際、博報堂とバーチャレクス・コンサルティングが共同して提供するアセスメントサービス「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」をぜひご活用ください。
このサービスでは、組織間が密に連携し、顧客に一貫した対応を行うための横串の管理「レベニューオペレーション」を実現するためには何が必要か、何が課題なのかを診断します。
まず、全社的に何を目標としているのか、体制や利用システムなどを把握する「共通事項のヒアリング」を行い、各組織の責任者に具体的な課題を確認する「個別のヒアリング」を行います。そのうえで、「レベニューオペレーション」の現状と課題を診断する流れです。
今回は、組織連携をキーワードに、顧客インサイトKPIの導入や、自社の目標値達成プロセスと顧客の意識変容プロセス、テストセールなどについてご紹介しました。
博報堂とセレブリックス、バーチャレクス・コンサルティングの3社が持つナレッジや経験、提供するサービスを活かし、企業の課題解決のお手伝いできる範囲は広いと考えています。詳しい資料をご用意しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
千葉 悠人(ちば ゆうと)
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局プリンシパル
博報堂にてマーケティングプラナーを経験した後、グループ会社の博報堂コンサルティングにてマーケティングブランディング及び事業開発コンサルタントに従事。現在はマーケティングシステムコンサルティング局にてDX・ビジネスコンサルタントとして、BtoB企業を中心に事業グロースやCRM、マーケ戦略からシステム・組織設計を統合的に支援する。
影森 太一(かげもり たいち)
株式会社セレブリックス
セールスカンパニーマーケティング統括部部長
セレブリックスに入社後、アライアンス営業やHRテックの営業支援を担当。2015年には、年間を通して最も優れた仕事を称えるジョブプレゼンテーション大会で優勝する。その後、全社の採用・教育部門を経て、アカウントセールスマネージャーとして営業責任者を担当。現在はマーケティング統括部部長を務め、セレブリックスのレベニュー部門を牽引する。
宮田 麻美(みやた あさみ)
バーチャレクス・コンサルティング株式会社
コンサルティング部シニアマネジャー
CRM領域(特にセールス分野)における戦略、システム、業務プロセスのコンサルティングシステム導入に伴う営業プロセス改革を数多く経験。
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