既存顧客のLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)の最大化をねらう、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント:顧客関係管理)。顧客の基本情報はもちろん、購入チャネルや、当該顧客が自社の売上構成比に占める割合、商品・サービスの購入頻度など、さまざまな情報を「一元管理」できるツールとして活用されています。
今日の企業活動では、新規顧客に対するアプローチはもちろん、既存の顧客を「優良顧客」に育て上げる施策が求められています。本記事では、このCRMをフル活用した「CRMマーケティング」とは何かを解説していきます。
CRMマーケティングで最適な顧客体験/運営体制の実現は「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」
目次
この記事の監修
上田 周平
株式会社 博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
カスタマーサクセス部長
CRMマーケティングとは何か
CRMとは、日本語で「顧客関係管理」と訳され、顧客一人ひとりとの良好な関係を構築・維持する対策と、顧客管理を行うシステムやツールを意味します。
CRMの目的は、LTVの最大化です。新規顧客獲得が困難になっている昨今の状況下において、最も重要視されているLTVをKPI(重要業績評価指標)にしています。そしてCRMマーケティングとは、CRMを活用してより効果的なマーケティング施策を打つことを指します。
従来のマーケティングでは、広告やDMなどで企業から顧客に情報を届けられても、顧客からの反応や要望は企業側に伝わりにくいという課題がありました。また、マーケティングに活用できる膨大な顧客データがあったとしてもそれを利活用するための人材が足りず、また分析に限りがあり、顧客のニーズに合った訴求方法を構築できずにいました。
しかし、CRMによって膨大な顧客データを分析することで、より顧客のニーズや価値観に合った商品やサービスが提供できるようになりました。
さらにCRMは施策後の結果や効果についても「見える化」できるため、マーケティング施策の改善と相性が良いことも特長です。CRMマーケティングの具体的な施策としては、顧客データを活用したセミナーの開催やUGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)の活用、各種SNSでの発信、などが挙げられます。
次に、CRMマーケティングを行うことによるメリットについて見ていきましょう。
新規集客より、既存顧客のLTV向上をねらう
日本のビジネスをとりまくマクロ環境は、少子高齢化による人口減で経済は縮小し、新規顧客の獲得が難しくなっています。特にWebマーケティングの世界においては、cookie規制の広がりやCPM(インプレッション単価:広告が1,000回表示されるごとに発生する費用)の値上がりにより、新規顧客へのリーチがより困難な傾向にあります。
そのため、企業のマーケティング戦略においては新規顧客にKPIを設定するよりも、既存顧客のLTV向上に重きを置き始めているケースが増えています。
CRMは、既存顧客との関係性を維持するツール。個々の顧客企業のさまざまなデータが蓄積されたCRMを活用して、既存顧客のニーズに沿ったマーケティング施策が最適です。
CRMマーケティングは「データドリブン」
CRMマーケティングは、CRMに入力した顧客情報の蓄積と分析に強みがあります。データを基にした再現性の高いマーケティング施策を打てるので、CRMマーケティングはデータドリブンだといえます。
顧客の氏名、年齢、性別、住所、連絡先などの基本情報のほか、購入商品や履歴から利用金額、広告やキャンペーンへの反応まで、あらゆる情報をCRMによって一元管理できます。
また、顧客が企業の場合も、会社概要をはじめ、商談担当者、商談金額、契約数、仕入原価、契約金額、契約日、契約担当者などさまざまの情報を一元管理し、社内の各部署と共有できます。
CRMマーケティングではこれらの情報を蓄積し、目的に応じて分析を行い、マーケティング施策を考えます。そして実際に施策を実行し、定期的に効果を検証・改善していくことでその効果を向上させます。
また、顧客とのタッチポイントが、メール、SNS、スマホアプリなどと多面的になっていることも、CRMマーケティングが求められている理由の一つです。さまざまなチャネルに散在する顧客の獲得記録や問い合わせの管理をCRMで一元管理できるからです。
さらにそれらのデータを基に、デシル分析や、CTB分析など、ロイヤルカスタマー醸成のためのさまざまな分析をCRM内で行うことができます。CRMを活用したマーケティング施策では、個社に対して「どのチャネルで」「どういった内容で」マーケティングを打てば一番効果的なのかを、データを活用して分析できるのです。
情報の可視化で、契約成立率アップをねらう
CRMマーケティングを行うことで、顧客の全体像を、解像度を高くして認識することができます。従来の情報管理のプロセスを簡略化するので、顧客情報の分析を効率的に行うことができるからです。
また、マーケティングが刺さらなかったケース、つまり成約・受注に至らなかった契約や途中破棄に終わった契約などの原因分析も効率的に行えます。
なぜ特定のマーケティング施策が受注につながらなかったのかを、データに基づいて分析します。その原因分析の結果を基に、営業部のマーケティング施策を改善したり、経営側に営業戦略そのものの変革を求めたりするなど、日々の業務以外の業務改善のヒントになる分析が可能です。
結果として、企業の売上、利益率アップといったより大きな結果を手にすることができる点もCRMマーケティングの導入が推奨される理由の一つです。
CRMマーケティングが必要とされている理由
このように、顧客のLTVを最大化するCRMマーケティングですが、そもそもなぜ今注目を集めているのでしょうか。その理由として、以下の2つのトレンドが挙げられます。
顧客ニーズの多様化、IT化
1つは、情報の多様化で顧客の行動やニーズが一様でなくなってきている点です。
CRMマーケティングは、個別化に最適化したマーケティングの手法です。自社の顧客の商品・サービス使用フェーズ、その会社の規模、営業スタイル、業界内での立ち位置、営業リーダーの趣向、自社の売上構成比上の立ち位置など、さまざまな要素を考慮した上で、数多く抱える自社の顧客の中でも、マーケティングを打ちたい企業がどこに位置しているのかを正しく理解し、最適なチャネルで訴求する、というものです。
これは、情報社会が加速することで、顧客のニーズが多様化してきたことと、軌を一にしています。顧客は多種多様な情報に触れるようになってきたので、自社製品と他社製品の比較検討も容易になってきているのです。
また、BtoB企業に関しては、意思決定に関わる人数が多く、承認プロセスが複雑です。自社の製品・サービスを買ってもらうためには、売りたい企業の意思決定のプロセスを熟知しなければいけません。
言い換えると、顧客のことを正しく知る必要性が出てきたといえます。こうした状況では、個別化に最適化したCRMマーケティングが効果を発揮します。
対面営業の縮小、インサイドセールスの普及
2つ目のトレンドとして、対面営業の縮小傾向とインサイドセールスの普及が挙げられます。
コロナ禍でリモートワークが定着し、これまで対面営業に比重を置いていた企業も、電話やメールを通してのアプローチをメインに行う、インサイドセールスやデジタルマーケティングを強化しています。CRMに蓄積する顧客データは対面営業だけでなく、こうしたデジタル上でのアプローチを通しても取得できるのです。
特に、インサイドセールスにCRMマーケティングを導入する事例が増えています。インサイドセールスは、従来の対面型営業に比較すると、自社と相性が良い顧客に焦点を当てることで、効率的な営業ができる点が特長です。
インサイドセールスにCRMマーケティングを組み合わせることで、本当に自社にとって重要な顧客や自社の商品・サービスを潜在的に欲している顧客に対して、満足度の高い営業・マーケティングを行えるのです。
このように、CRMマーケティングは、時代の変化に即したマーケティングの手法であり、今後より一層デジタル化が進む社会においてはさらに重要になっていくでしょう。
CRMマーケティングの施策の「具体策」
次に、最適なCRMマーケティング施策の打ち方について解説していきます。
まずは顧客を知り、KPIを立てる
- 顧客への商品・サービスレベルの向上
- 顧客に適確な情報提供とコミュニケーション
- 顧客にとって価値あるキャンペーンなどの実施
CRMマーケティングが有効だといっても、闇雲に運用するだけでは成果は出ません。まず、社内でCRMを導入しマーケティングを打つ目的とそれを基にした目標(KPI)を設定しましょう。
例えば、KPIは以下の6つの基準で設定可能です。
- 初回商品から定期購入への引き上げ率
- 継続率の向上、離脱率の抑止
- 初回客から優良顧客への育成率
- クロスセル/アップセル率の向上
- 広告から見るLTV指標での計測
- オフライン施策の費用対効果の向上
CRMマーケティング導入後は、マーケティングの効率化がどの程度はかられたのかを定量的に分析することが求められます。上に挙げた6つの視点には、優良顧客を育てられたか=LTVを最大化したかという観点が盛り込まれています。
繰り返しになりますが、CRMマーケティングはデータドリブンで、個々の顧客に最も刺さるマーケティングを打てる手法です。これまではあやふやにしかわからなかった顧客の解像度が上がり、本当に顧客がこちらに求めていることが明らかになる、という意味です。
そうした顧客に対して効果的なマーケティングを打てば、優良顧客に育つ可能性は大きくなります。そのためにも、「売上増」などの短期的な目標ではなく、長期的なLTVという視点をベースにしたKPIを設定していくことが重要になってくるのです。
次に、CRMマーケティングの具体的な施策の事例をご紹介します。
セミナー開催
見込み顧客を自社の顧客に育成するには、セミナーやワークショップなどのイベントを開催するのが効果的です。購入や契約までの検討期間に、顧客と良好な関係を維持していくためにも、イベントの内容は見込み顧客の検討段階やニーズに合わせるのがおすすめです。セミナーの告知方法としては、メールやDM、各種SNSなどを使用しましょう。
時間を割いてセミナーに参加する見込み顧客は、そのテーマに対する関心がすでに一定以上高いと判断できるため、自社の商品・サービスの訴求もしやすいです。オンライン上でセミナーを開催すると、コストをかけずに全国の見込み顧客に対してアプローチできます。
DMやメルマガの配信
過去に自社の商品・サービスを購入したことがある顧客に対して、興味を持ちそうな別商品をDMやメルマガで告知しましょう。送信先の割り出し方としては、セミナーのアンケートデータや購入履歴などに基づいて購買意欲の高い顧客を抽出する方法が一般的です。
これにより、クロスセル(購入するアイテムでは満たされない欲求を満たすために、関連するアイテムを購入すること)とアップセル(購入した商品より上位の商品を提案することにより、顧客一人当たり単価向上をねらうこと)の促進につながります。
顧客を優良顧客に育て上げるためにも、自社のアピールポイントを打ち出していき、顧客が潜在的に抱えているニーズに訴求していきましょう。
SNSやLINEアカウントの運用、UGC活用
SNSやLINEアカウント運用は、特にBtoCの顧客に対して有効なCRMマーケティング施策です。SNSの中でも、Instagramはビジュアルの訴求力が高く、写真や動画を通してブランドの世界観を伝えられます。顧客の情報を熟知し、現在買っている商品に関連する商品や、顧客の年代・趣味嗜好に関係する商品訴求やマーケティングを打ち出しましょう。
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LINE運用では、顧客一人ひとりと「深く向き合うこと」が重要です。顧客の購入サイクルに応じて一貫性のあるコミュニケーションを展開していくと効果的です。
UGCとは、消費者のクチコミやレビューのことを指します。メルマガでクチコミ・レビューを見せることも、顧客体験向上やクロスセル・アップセル促進に有効な手法です。商品購入者のリアルな声が聞けるため、企業視点による一方的な売り込みよりも信頼できる、と考える顧客が多いからです。
また、UGCを見て、当該商品・サービスを「自分ごと化」し、販売企業のファンになる消費者もいます。ファンになってもらえれば、クロスセル・アップセルを促しやすくなります。
サンクスページの充実
EC購入完了後の画面(サンクスページ)を改修しコンテンツを充実させることも、CRMマーケティングでは有効です。
サンクスページは購買行動に至った人しか見ません。しかも、今買ったばかりの状態という、企業にとっては優良顧客につながりやすい顧客です。自社商材への関心・購買意欲が高く、コミュニケーションの工夫次第ではリピート利用につながる可能性が高くなります。
例えば「こんな商品もおすすめ」といった関連商品のレコメンドや、SNSやLINEへの誘導、メルマガ登録への誘導、アプリへの誘導、次回使えるクーポンの発行といった対策を講じてみましょう。
まとめ
優良顧客の育成が企業にとっての重要課題になる時代において、CRMマーケティングがいかに有効か、また、その応用範囲がいかに広いか、おわかりいただけたと思います。本記事を参考に、自社にあったCRMマーケティング施策を実施してみてください。
CRMマーケティングで最適な顧客体験/運営体制の実現は「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」
マーケティング‧営業‧カスタマーサクセス部門を連携し、効率的な業務運営、生産性や組織全体での成⻑を高めるレベニューオペレーションの実現は、多くの企業にとっての課題なのではないでしょうか。
博報堂グループでは、マーケティング/営業/カスタマーサクセス領域を統合した業務プロセスの最適化と情報システム基盤の企画‧構築を支援する「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」を提供しています。
各部門が、連携‧統合された運営体制を実現することで、収益目標の共通認識の醸成や顧客生涯価値(LTV)の最大化を目指し、最適な顧客体験および業務の仕組みを実現するため、5つの切り口「戦略‧業務プロセス‧システム‧データ‧組織」における現状の課題を診断し、解決のためのアプローチ提言までを行うサービスを提供いたします。
組織間連携の最適化による収益最大化「HAKUHODO Marsys Assessment for RevOps」
- ソリューションの概要や特徴
- レベニューオペレーション(RevOps)とは?
- 取り組みの流れ
更新日:
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。
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